万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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山部宿爾※1赤人(やまべのすくねあかひと)の不尽山(ふじんのやま)を望(のぞ)める歌一首并せて短歌

天地(あめつち)の 分(わか)れし時ゆ 神(かむ)さびて 高く貴(たふと)き 駿河(するが)なる 布士(ふじ)の高嶺(たかね)を 天(あま)の原 振(ふ)り放(さ)け見れば 渡る日の 影(かげ)も隠(かく)らひ 照る月の 光も見えず 白雲(しらくも)も い行きはばかり 時じくそ 雪は降りける 語り継(つ)ぎ 言ひ継ぎ行かむ 不尽(ふじ)の高嶺(たかね)は

※1「爾」は原文では「示」+「爾」

巻三(三一七)
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天地のはじめに分かれた時からずっと神々しくも高く貴い駿河の富士の高峰を、天遠く振り仰いで見れば、空を渡る日も富士の影に隠れ、照る月の光もさえぎられて見えず、白雲も行く手を阻まれ、時もなく雪は頂に降り続いている。これから先も語り継ぎ、語り継ぎ行こう、富士の高嶺を。
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この歌は、山部赤人(やまのべのあかひと)が富士山を眺めて詠んだ長歌。
山部赤人(山辺赤人とも)は後の世に「歌聖」とも称される万葉集を代表する歌人のひとりですが、詳しい経歴などはなにも分かっていません。
おそらくは聖武天皇の時代の宮廷歌人だったのでしょう。

この長歌はそんな山部赤人が駿河の国を訪れたときに富士山を眺めて詠んだもので、霊峰富士を讃える土地讃めの歌となっています。
天地のできたときからずっと高くそびえる富士は、日の光も山影に隠れ、月の光もさえぎられ、雲も行く手を阻まれ、常に山頂に雪が降り積もっているほどの威容であると褒め称えています。
そしてそんな富士山を、これからもずっと語り継いで行こうと…

すでに何度も述べてきましたが、この時代の人々は旅の途中の土地や道々にはその土地をつかさどる地霊や悪しき出来事をもたらす死者の魂などがいると信じ、その場所を通る時には必ず供え物をしたり土地讃めの歌を詠んだりして地霊を慰め、精霊の加護を得てから通りました。
交通網が整備され情報が氾濫する今の時代の人々と違い、万葉の時代の赤人たちにとっては遠く奈良の京から離れた駿河への旅は想像を絶するほどの不安に満ちたものだったことでしょう。
「語り継ぎ行こう」との言葉の伝承は神聖な行為であり、霊峰富士を讃える祈りの継承を誓ったものでもあります。
この歌はそんな、(見たままの景色に感動して詠んだ単純な情景歌ではなく)、神の山、富士山を讃えることでその大きなご加護にあずかろうとした旅の無事を祈る呪術的な歌なのです。
反歌についてはまた次回。


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万葉集巻三


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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