万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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磐姫皇后(いはのひめのおほきさき)の、天皇を思(しの)ひて作りませる御歌四首

君が行き日(け)長くなりぬ山たづね迎へか行かむ待ちにか待たむ

右の一首の歌は、山上憶良臣(やまのうへのおくらのおみ)の類聚歌林(るいじうかりん)に載す。

巻二(八五)
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あなたが旅立ってからずいぶん長い日が経ってしまった。あの山道をたずねて迎えに行こうかな。やっぱり待っていようかな。
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この歌は万葉集巻二の巻頭を飾る一首です。
万葉集巻二は前半を相聞(さうもん)歌、つまり恋の歌を中心に、後半は挽歌(死者を悼む歌)で構成されていてます。

この巻二(八十五)の歌は磐姫皇后(いはのひめのおほきさき)の作とされています。
磐姫皇后は大和の西の地方にある葛城(かつらぎ)山脈のふもとに勢力を誇っていた一族出身の人物で、大和の一族以外から初めて皇后になった女性です。
また、この歌に詠まれている君とは、夫の仁徳天皇のことです。

じつはこの四首は古事記などに出てくる仁徳天皇と磐姫皇后に関する古代歌謡をもとにされて伝承されてきたもので、もともとは短歌の形にさえ洗練されていないものでしたが、長い年月をかけて詠い継がれるうちにずいぶんと洗練された歌に詠み換えられて来たようです。
以前の持統天皇の香具山の歌のときにも述べましたが、古代の歌とはこのように人々によって口から口に詠い継がれ、その過程で「調べ(リズム)」が自然に洗練されることがよくあります。

古事記では磐姫皇后が新嘗祭に必要な「みつながはし」の葉をとりに紀州へ出掛けているときに、仁徳天皇が八田の若郎女という女性を宮廷に入れて寵愛したといいます。
それを知った磐姫皇后は激怒し、難波の宮廷には帰らず、舟で川を遡り山城の国の豪族の家に篭ってしまいました。
仁徳天皇は磐姫皇后の怒りをおさめるために自ら出向き、社殿の外で皇后のために心をおさめる歌を詠ったとされています。


さて、これから紹介する磐姫皇后の四首の歌は一連の連作となっていますが、どれも愛しい人を想う激しい嫉妬を感じさせる歌ばかりです。
一見すると磐姫皇后は嫉妬深い心の狭い女性のようにも取れるかも知れませんが、ただ、この時代では嫉妬は相手への深い愛情の証として非常に尊ばれていたことを念頭において読んでみてください。

いまの時代でも、嫉妬してしまうのは相手への愛情が深いのだという考え方は充分に理解できるものですよね。


第二代綏靖(すいぜい)天皇の高丘宮跡伝承地。
磐姫はこの地のあたりで生まれたと言われています。



高丘宮跡伝承地のすぐそばにある楢原休憩所からの眺め。
高丘宮跡伝承地は奈良県葛城市にある九品寺(くほんじ)から一言主神社(ひとことぬしじんじゃ)へ向かう葛城古道の中間あたりにあります。



磐姫は葛城襲津彦(かづらきそつひこ)の娘で、葛城氏は一時は葛城地方一帯を治めた豪族でした。


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万葉集巻二の他の歌はこちらから。
万葉集巻二


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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