万葉集入門
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現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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長忌寸意吉麿(ながのいみきおきまろ)の歌八首

さし鍋(なべ)に湯沸(わ)かせ子ども櫟津(いちひつ)の檜橋(ひばし)より来(こ)む狐(きつね)に浴(あ)むさむ

右の一首は伝へて云はく「一時(あるとき)に衆集(もろもろつど)ひて宴飲(うたげ)しき。時に夜漏三更(さよなか)にして、狐の声聞ゆ。すなはち衆諸興麿(もろひとおきまろ)を誘(さそ)ひて曰はく『この饌具(せんぐ)、雑器(ざふき)、狐の声、河、橋等の物に関(か)けて、ただ歌を作れ』といひき。すなはち声に応(こた)へてこの歌を作りき」といふ。

左注訳
右の一首は伝えて云うには「あるときに多くの人々が集まって宴会をしていた。その時に真夜中になって狐の声が聞こえてきた。そこで皆が興麿に勧めて言った『この食器、用具、狐の声、河、橋などの物について、ちょっと歌を作ってみよ』と。するとすぐにその声に応えてこの歌を作った」という。

巻十六(三八二四)
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さし鍋に湯を沸かせよ皆の衆、櫟津の檜の橋よりやって来る狐に浴びせてやろう
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この歌は、長忌寸意吉麿(ながのいみきおきまろ)が詠んだ一首。
題詞に「長忌寸意吉麿の歌八首」とあるように、ここから八首の意吉麿の歌が紹介される形で収録されています。

長忌寸意吉麿は持統天皇の頃の宮廷歌人で、この時代を代表する宮廷歌人の一人だったようです。
左注にある「興麿(おきまろ)」は意吉麿のこと。

左注によると、あるときに多くの人々が集まって宴会をしていたそうで、その時に真夜中になって狐の声が聞こえてきたそうです。
そこで人々が興麿に勧めて『この食器、用具、狐の声、河、橋などの物について、ちょっと歌を作ってみよ』と言ったそうです。
すると意吉麿はすぐにその声に応えてこの歌を作った」とのこと。

その歌の内容は「さし鍋に湯を沸かせよ皆の衆、櫟津の檜の橋よりやって来る狐に浴びせてやろう」と、その場の人々に語り掛ける形で見事にお題を詠み込んでいますよね。

櫟津(いちひつ)は現在の奈良県大和郡山市櫟本の西あたりにある川の津のことでしょうか。
津が「河」を表し、また「いちひつ」の中にお題のひとつである用具の「櫃(ひつ)」も隠されています。

「檜橋(ひばし)」は文字通り檜の橋ですが、ここにもお題の「橋」の他にもうひとつ食器の「箸」が入っている訳ですね。
こうして読むと、即興で作った割には同音を利用してお題を詠み込むなど、意吉麿の歌才がよく出ているように感じられます。

万葉集の時代にはこのように、宴会などの席で場を賑わせたり和ませたりする戯れの歌も多く詠まれたようで、この時代の歌の言葉が担った役目の多様性が感じられて面白い一首でもありますよね。


藤原京時代の下級役人の食事模型(橿原市藤原京資料室展示品)。
長忌寸意吉麿たちもこんな食事を食べながら宴会を楽しんだのでしょうか。



奈良県天理市和爾下神社にあるこの歌の歌碑。



歌の解説を書いた添碑。



奈良県天理市櫟本町の和爾下神社
国道169号線沿いにあり、すぐ横には柿本人麿の墓とも云われる歌塚や、柿本神社跡などもあります。


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万葉集巻十六の他の歌はこちらから。
万葉集巻十六


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万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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