万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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十市皇女(とをちのひめみこ)の、伊勢の神宮に参赴(まゐおもむ)きし時に、波多(はた)の横山の巌を見て吹黄刀自(ふきのとじ)の作れる歌
河の上(へ)のゆつ岩群(いはむら)に草生(くさむ)さず常(つね)にもがもな常処女(とこをとめ)にて
巻一(二十二)
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川のほとりのあの神聖な岩には苔草も生えていない。あのように常に変わらずありますように。永遠のおとめとして。
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この歌は十市皇女(とをちのひめみこ)が伊勢神宮に参拝した時に、吹黄刀自(ふきのとじ)が詠んだ歌です。
吹黄刀自については詳しいことは不明ですが、刀自とは一家の主婦の意味ですので十市皇女に仕えていた女性でしょうか。
十市皇女は天武天皇と額田王の皇女で、天武天皇の兄である天智天皇の皇子の大友皇子の正妃でもありました。
実の父である天武天皇が、夫の大友皇子の近江朝廷と戦い滅ぼした「壬申の乱」の後は、天武天皇の庇護の下で暮らしていたようです。
この伊勢神宮参拝は壬申の乱の四年後のこと。
「横山の巌」は現在ではどの岩かは不明ですが、三重県の波多神社の川沿いにかつて神聖な岩とされていたものがあったのでしょう。
そんな聖岩の苔ひとつ生えていない様を見て、「十市皇女も常に変わらず綺麗なおとめでありますように」との願いを込めて吹黄刀自が詠んだ一首ですね。
この時すでに十市皇女は大友皇子の子である葛野王(後の橘諸兄)を産んだあとでしたが、この時代は未婚にかぎらず若き女性を「処女」と呼んだようです。
もちろん吹黄刀自は純粋に十市皇女の華やぎが永久に続くようにとの願いを込めてこの歌を詠ったわけですが、この数年後、十市皇女は突然の病で亡くなり皮肉にも永遠のおとめとなってしまうのでした。
十市皇女が祭られている比賣神社(ひめかみしゃ)。
奈良の新薬師寺の前にあります。
十市皇女のお墓は新薬師寺の側の赤穂神社などが候補地として有名ですが、この比賣神社の比賣塚こそほんとうの十市皇女のお墓との説も…
比賣塚。
ここが十市皇女のほんとうのお墓か?
比賣神社(ひめかみしゃ)解説。
比賣神社前にあるこの歌の歌碑。
歌碑の解説。
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万葉集巻一
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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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