万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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つのさはふ 石見の海の 言(こと)さへく 韓(から)の崎なる 海石(いくり)にそ 深海松生(ふかみるお)ふる 荒磯(ありそ)にそ 玉藻は生ふる 玉藻なす 靡(なび)き寐(ね)し児を 深海松の 深めて思(おも)へど さ寝(ね)し夜は いくだもあらず 這(は)ふ蔦(つた)の 別れし来(く)れば 肝(きも)向かふ 心を痛(いた)み 思ひつつ かへりみすれど 大船の 渡(わたり)の山の 黄葉(もみぢば)の 散りの乱(まが)ひに 妹が袖(そで) さやにも見えず 嬬隠(つまごも)る 屋上(やがみ)の〔一(ある)は云はく、室上山(むろかみやま)〕山の 雲間より 渡らふ月の 惜(を)しけども 隠(かく)ろひ来れば 天(あま)つたふ 入日(いりひ)さしぬれ 丈夫(ますらを)と 思へるわれも 敷栲(しきたへ)の 衣の袖は 通りて濡れぬ
巻二(一三五)
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角ばった石の石見の海の、言葉も通じぬ韓の韓の崎の海中の石には、海深く海松(みる)が生えている。波の荒い磯には美しい藻が生えている。そんな美しい藻のように私に靡居て寝る子を、深い海中の海松のように深く愛しんでいたのに、一緒に寝た夜は幾らもなく、蔦の蔓の長く伸びるように遠くに別れて来れば肝を宿す心も痛み、思いを残しながら振り返り見るけれども、大きな船の海を渡るような渡の山の黄葉が目の前に散り乱れて、妻の振る袖もはっきりとは見えないよ。妻とともに隠れる屋上の〔一は云はく、室上山〕山の雲の間に空を渡る月のように惜しくも妻の家は隠れてしまったので、天を渡る日が沈んでくると立派な男子と思っていた私も衣の袖が涙で濡れ通ります。
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この歌は巻二(一三一)の長歌とともに、石見の国に派遣されていた柿本人麿が大和へ帰るときに詠んだもう一首の長歌です。
「海松(みる)」は海の底深くに生えている海藻。
「言さへく韓」は「言葉の通じない韓の国」の意味で、ここでは「韓の崎(現在の島根県那賀郡国府町、唐鐘の崎か?)」を引き出す修飾語となっています。
内容としては巻二(一三一)の長歌とおなじく相聞歌の分類に含まれていますが土地誉めや旅の鎮魂歌の要素も多く持っている一首といえるでしょう。
巻二(一三一)の歌が石見の家に残してきた妻を中心に詠っていたのに対して、こちらではおなじく石見の家に残してきた子のことにも触れて、別れの哀しさを際立たせる内容となっています。
また、海の底深くの「海松」や散り乱れる山の黄葉も詠い込み、巻二(一三一)の長歌の内容をさらに深めた内容となっていますね。
このように呪術的な鎮魂歌としての要素を盛った歌でありながらも読み手を飽きさせない工夫がなされているのは、道々の精霊や土地の神々を飽きさせない言葉にこそ大きな言霊としての霊力が宿ると人麿たちの時代の人々が信じていたからなのでしょう。
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万葉集巻二
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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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