万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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柿本朝臣人麿の泊瀬部皇女(はつせべのひめみこ)・忍坂部皇子(おさかべのみこ)に献(たてまつ)れる歌一首并せて短歌

飛鳥(とぶとり)の 明日香(あすか)の河の 上(かみ)つ瀬に 生(お)ふる玉藻は 下(しも)つ瀬に 流れ触(ふ)らばふ 玉藻なす か寄りかく寄り 靡(なび)かひし 嬬(つま)の命(みこと)の たたなづく 柔膚(にきはだ)すらを 剣刀(つるぎたち) 身に副(そ)へ寐(ね)ねば ぬばたまの 夜床(どこ)も荒(あ)るらむ〔一(ある)は云はく、あれなむ〕 そこ故に 慰めかねて けだしくも 逢ふやと思ひて〔一(ある)は云はく、君もあふやと〕 玉垂(たまたれ)の 越智(をち)の大野の 朝露に 玉裳(たまも)はひづち 夕霧に 衣(ころも)は沾(ぬ)れて 草枕 旅宿(たびね)かもする 逢はぬ君ゆゑ

巻二(一九四)
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飛ぶ鳥の明日香の川の川上の水に生える美しい藻は、川下に流れてもつれ合う。その美しい藻のように寄り添い合い靡き合った夫の重ね合った柔らかな肌さえも、剣や刀のように身に添えて寝ていないので、ぬばたまの夜の寝床も荒れているでしょう〔一は云はく、荒れるでしょう〕、それゆえに慰めかねて必ずや逢えるだろうと思って〔一は云はく、君にお逢いできるだろうかと〕、玉を貫く越智の大野の朝露に美しい裾は濡れ、夕べの霧に衣は濡れて、私は草を枕の旅寝をするのです。逢うことの叶わない君ゆえに。
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この歌は柿本人麿(かきのもとのひとまろ)が泊瀬部皇女(はつせべのひめみこ)と忍坂部皇子(おさかべのみこ)に献上した一首。
泊瀬部皇女と忍坂部皇子はともに天武天皇の子で同母兄妹です。
万葉集の中でも一首の歌を二人の人物に献上するというのは珍しいことですが、これは川島皇子(かはしまのみこ)が亡くなったときに川島皇子の妃である泊瀬部皇女に忍坂部皇子が献上する歌を人麿が代作したのではないかと言われています。

歌の内容は主体を泊瀬部皇女とし、前半部分を明日香川の藻を譬えにして、「川の水の流れに靡くように寄り添い合った夫」と、亡くなった川島皇子との共に暮らした日々を泊瀬部皇女が思い出す内容になっています。
そして「剣や刀のように身に添えてあなたと寝ることも出来ないので寝床も荒れている」と嘆き、その哀しさを慰めることも出来ないので皇子の眠る越智の大野に逢いに来ましたと皇子を亡くした哀しさを訴えています。

歌だけを読むとまるで泊瀬部皇女が実際に詠んだかのような切実さが感じられますが、おそらくは泊瀬部皇女が川島皇子を越智の大野に葬った葬送のときの様子を思い出しながら柿本人麿が代作したのでしょうね。
越智の野に眠る川島皇子の魂に直接語り掛けるかのような、なんとも哀しみの漂う挽歌になっていますね。


奈良県明日香村の大字真弓にあるマルコ山古墳。
川島皇子の墓ではないかといわれています。


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万葉集巻二


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万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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