万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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丹比真人笠麿(たぢひのまひとかさまろ)の紀伊国(きのくに)に往(ゆ)きて勢(せ)の山を越えし時に作れる歌一首
栲領巾(たくひれ)の懸(か)けまく欲(ほ)しき妹(いも)の名をこの勢(せ)の山に懸(か)けばいかにあらむ
〔一(ある)は云はく、代(か)へばいかにあらむ〕
巻三(二八五)
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白い栲の領巾を懸けるように口に懸けたいと思う妹の名を、この背の山に懸けて妹山という名で呼んではどうだろう
〔一に云はく、代えてはどうだろうか〕
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この歌は丹比真人笠麿(たぢひのまひとかさまろ)が紀伊国(きのくに)の勢(せ)の山を越えた時に詠んだ一首。
丹比笠麿については詳しいことはわからないようですが、おそらくは持統天皇の行幸に従駕したときの歌なのでしょう。
「栲領巾(たくひれ)」は女性の肩に掛けた長い布で、「栲領巾(たくひれ)の」は「かけ」にかかる枕詞。
「勢(せ)の山」は和歌山県にある「背山(せのやま)」のこと。
この時代より後には、「背山」と紀ノ川を挟んで立つ山を「妹山(いもやま)」と呼び、一対で「妹背(いもせ)の山」として呼ばれるようになりましたが、丹比笠麿たちの頃にはまだ対岸の山は「妹山」とは呼ばれていなかったようですね。
この時代、背(せ)」は夫などの男を意味し、「妹(いも)」は妻などの女を意味する言葉でした。
それゆえに「白い栲の領巾を懸けるように口に懸けたいと思う妹の名を、この背の山に懸けて妹山という名で呼んではどうだろう」という発想になったわけです。
つまりは丹比笠麿が、「夫の山」ではなく「妻の山」と入れ替えて呼んではどうだろうと一見無茶な提案をしたわけですが、これも実際にはこのようにして家で自分の帰りを待つ妻を思うことで旅路の不安な心を鎮めようとした一首だったのではないでしょうか。
春日蔵首老(かすがのくらのおびとおゆ)の答えた歌に続きます。
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万葉集巻三
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