万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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高市連黒人(たけちのむらじくろひと)の近江(あふみ)の旧(ふる)き都(みやこ)の歌一首
かくゆゑに見じといふものを楽浪(ささなみ)の旧き都をみせつつもとな
右の歌は、或る本に曰はく「少弁(せうべん)が作なり」といへり。いまだこの少弁といふ者を審(つばひ)らかにせず。
巻三(三〇五)
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これだから見たくないと言うのに、楽浪の近江の旧き都を見せて悲しい思いにさせることよ。
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この歌は高市連黒人(たけちのむらじくろひと)が近江(あふみ)の旧都を見て詠んだ一首。
左注によるとこれは「少弁(せうべん)」の作だともされていますが、おそらくは高市黒人の作った歌を後の世にこの少弁と呼ばれた人物が宴などの席でよく口ずさんで誦じたのでしょうね。
「少弁」については、これは人名ではなく役職名で、本名などの詳しいことはなにもわからないようです。
歌の内容は「これだから見たくないと言うのに、楽浪の近江の旧き都を見せて悲しい思いにさせることよ。」と、大和に遷都した後の荒廃した近江の都を見て悲しんで詠った一首となっています。
壬申の乱で近江朝廷が滅んだ後、近江の都は急速にかつての賑わいを失くしてしまったのでしょうね。
この時代、土地が繁栄するのはその土地の神の力のおかげだとされていました。
逆に土地が繁栄を失うのはその土地の神の力が衰退してしまったからだと信じられ、そのような繁栄を失った土地を訪れた者は土地の神を慰める歌を詠んで捧げたのです。
この歌も、そんな繁栄を失った近江の旧都を訪れた高市黒人が、土地の神を慰めて詠んだ一首だったのでしょう。
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万葉集巻三
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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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