万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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神岳(かむをか)に登りて山部宿禰赤人の作れる歌并せて短歌

三諸(みもろ)の 神名備(かむなび)山に 五百枝(いほえ)さし 繁(しじ)に生(お)ひたる つがの木の いや継(つ)ぎ継(つ)ぎに 玉(たま)かづら 絶ゆることなく ありつつも 止(や)まず通はむ 明日香(あすか)の 旧(ふる)き京師(みやこ)は 山高み 河雄大(かはとほしろ)し 春の日は 山し見がほし 秋の夜(よ)は 河し清(さや)けし 朝雲(あさぐも)に 鶴(たづ)は乱れ 夕霧(ゆふぎり)に 河蝦(かはづ)はさわく 見るごとに 哭(ね)のみし泣かゆ 古(いにしへ)思へば

巻三(三二四)
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神の山に たくさんの枝が繁っている栂の木のようにつぎつぎに、美しい葛の途切れることなく伸びているように 何度も通いたくなる明日香の旧き京は、山も高く川も雄大に流れている。春の日は山を見たく思い、秋の夜は川がさやかだ。朝雲に鶴の群れは乱れ飛び、夕霧に蛙は鳴き騒ぐのを見るたびに、思わず泣いてしまうよ。古き昔を思い出して…
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この歌は山部宿禰赤人(やまのべのすくねあかひと)が神名備山に登って明日香の古き京を詠んだ一首。
おそらくは藤原京かその後の奈良の平城京への遷都後に明日香の地を訪れたのでしょう。

神名備は神の住む場所のことで、この場合は雷丘かミハ山、あるいは甘樫丘あたりでしょうか。
そんな「神名備山にたくさんの枝が繁っている栂の木のようにつぎつぎに、美しい葛の途切れることなく伸びているように 何度も通いたくなる明日香の旧き京…」と明日香の京を褒めたたえている土地讃めの歌ですね。
この時代の人々はこのように旅などで訪れた土地を賞讃する歌を詠むことでその土地の神の加護を得ようとしました。

同時に、土地の繁栄はその土地の神の力によるものと信じ、土地の賑わいが衰退してしまうのは土地の神の力が衰退してしまったためとも考えていたようです。
そして明日香のように京が他の場所に遷ってしまって衰退した土地を訪れたものは、この山部赤人のようにその土地の神を褒めたたえる歌を詠んで土地の神を慰めて通りました。
赤人のこの歌も、何度も通いたくなる京と褒め称えながら、古き昔の繁栄を思い出して明日香の土地の神を慰めている心のこもった一首ですね。

土地讃めの儀礼歌であることを別にしても、山部赤人にとって明日香は懐かしい思い出のある故郷でありその思いも込めて素直な心情で詠むことが出来たのでしょう。


奈良県明日香村の飛鳥寺境内にあるこの歌の歌碑。
長歌と次の巻三(三二五)の反歌が刻まれています。



歌の現代語訳が書かれた添碑。



奈良県明日香村にあるミハ山(石舞台の南)。
神名備山は雷丘かもしくはこのミハ山あたりでしょうか。



雷丘(いかづちのおか)。


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万葉集巻三の他の歌はこちらから。
万葉集巻三


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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