万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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大伴坂上郎女(おほとものさかのうへのいらつめ)の神を祭るの歌一首并せて短歌

ひさかたの 天(あめ)の原より 生(あ)れ来(き)たる 神の命(みこと) 奥山の 賢木(さかき)の枝に 白香(しらか)つけ 木綿(ゆふ)とり付けて 斎瓮(いはひべ)を 斎(いは)ひほりすゑ 竹玉(たかだま)を 繁(しじ)に貫(ぬ)き垂(た)れ 鹿猪(しし)じもの 膝(ひざ)折り伏し 手弱女(たわやめ)の おすひ取り懸(か)け かくだにも われは祈(こ)ひなむ 君に逢(あ)はぬかも

巻三(三七九)
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遠き天より生まれ来た神々よ。奥山の榊の枝に白髪をつけ、木綿を取り付けて神聖なかめを土を掘って据え、竹玉をたくさん貫き垂らして、鹿や猪のように膝を折り伏して、女は打掛を掛けて、私はこんなにも祈ります。愛しいあの人に逢いたいと。
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この歌は大伴坂上郎女(おほとものさかのうへのいらつめ)が、天平五年の十一月に大伴氏の氏神を祭った際に作った長歌で、実際には祭神歌ではなく恋歌ですが氏神を祭る日に作り神に祈ったとのことで神祭る歌とされています。
大伴坂上郎女は大伴旅人(おほとものたびと)の異母妹で、旅人の子の大伴家持(おほとものやかもち)は彼女の娘の大伴坂上大嬢(おほとものさかのうへのおほおとめ)を娶ったことから、家持にとっては叔母であり義理の母にもあたります。
また、額田王以後を代表する万葉集の中の優れた女性歌人で、八十首以上にも上る多くの歌を残し、家持にも多大な歌の影響を与えた恋多き女性でした。

大伴旅人が大宰府に派遣されてすぐに妻を亡くした後は、彼女も太宰府に赴いて大伴氏の刀自(主婦)として旅人たちの育成にも力を注いだようですが、天平五年は旅人がこの世を去った後なのでこの歌が詠まれたのは奈良の京でのことでしょう。

「賢木の枝に 白香つけ(榊の枝に白髪をつけ)」というのは、この時代、様々なものに白髪をつけて神を祭る風習があったのでしょうか。
そんな手厚く神を祭って、あの人に逢わせてくださいと祈る恋心が素敵な一首ですね。
こうして見ると、万葉の時代の人々も今の時代の我われとなんら変わらない恋心を抱いて神頼みしていたのだとあらためて気づかされます。

大伴坂上郎女には何人もの男性と交した恋歌があり、彼女のそれらの歌はこれから先に何度も出てきますが、万葉集の編者とも言われる大伴家持にも多大な歌と恋の影響を与えた人物としてぜひ記憶しておいてもらいたいと思います。


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万葉集巻三


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万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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