万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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仙柘枝(やまひとつみのえ)の歌三首

あられふる吉志美(よしみ)が岳(たけ)を険(さが)しみと草(くさ)とりはなち妹が手を取る

右の一首は、或は云はく「吉野の人味稲(うましね)の柘枝仙媛(つみのえのやまひめ)に与(あた)へし歌なり」といへり。ただ、柘枝伝(つみのえでん)を見るに、この歌あることなし。

巻三(三八五)
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あられの降る吉志美の山が険しいので草を取り損ねて妹の手を取ってしまったよ。
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この歌は「仙柘枝(やまひとつみのえ)の歌」三首と題された三首の歌のうちのひとつ。
題詞によると吉野に住む味稲(うましね)という人物が柘枝仙媛(つみのえのやまひめ)に与えた歌ということですが、柘枝伝(つみのえでん)にはこのような歌は収録されていないともあります。

「吉志美(よしみ)の山」は所在不明。
柘枝伝(つみのえでん)とは柘枝伝説をまとめた伝承だったようですが、残念ながら現在には伝わっていません。

ただ、この万葉集の「仙柘枝(やまひとつみのえ)の歌三首」や「懐風藻(かいふうそう)」などに伝わるところによると、その昔、吉野の漁夫の味稲(うましね)という人物がいて吉野川で「梁(やな)」という魚を獲る道具を仕掛けたところ、梁の仕掛けに山桑の枝がかかっていたといいます。
味稲がその山桑の枝を手に取ったところ、枝は美女と化しました。
味稲はその美女と契りを結び共に暮らしていましたが、やがてその美女は天に飛び去ってしまったそうです。

この歌はそんな山桑の枝の美女である柘枝仙媛に味稲が与えた一首だとのことですが、「あられの降る吉志美の山が険しいので草を取り損ねて妹の手を取ってしまったよ。」との、思いもかけず美女を得た喜びを詠っています。
歌の内容自体は解釈が少し難しいのですが、「草を取ろうとしたら山が険しいので手元が狂っておまえの手を取って(握って)しまったよ」といったところでしょうか。

吉野川が舞台の柘枝伝説とは少し内容が異なりますが、あるいはこちらの歌の内容のほうが真実で、味稲は山の中で美女に出逢ったのかも知れませんね。

まあ、この手の仙女と一般の人間の神婚説話は大陸などにもあったようなのでこの柘枝伝説もその影響を受けた伝承だったのかも知れませんが、そんな伝説が生まれる吉野という土地の当時の神々しさをよく伝えてくれる一首のように思います。


柘枝伝説のある吉野川(奈良県吉野町)。


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万葉集巻三の他の歌はこちらから。
万葉集巻三


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万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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