万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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神亀(じんき)六年己巳(きし)。左大臣長屋王(ひだりのおほまへつきみながやのおほきみ)に死を賜(たま)ひし後に倉橋部大女(くらはしべのおほきみ)の作れる歌一首
大君(おほきみ)の命恐(みことかしこ)み大殯(おほあらき)の時にはあらねど雲がくります
巻三(四四一)
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大君のご命令に従い、まだ殯の宮にお奉りするような時ではないけれど雲に隠れてしまわれました。
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この歌は、長屋王(ながやのおほきみ)が左道を学んで謀反を企てたとして自害に追いやられた(長屋王の変)後に、倉橋部大女(くらはしべのおほきみ)が詠んだ一首。
長屋王は天武天皇の孫で、高市皇子の子。
新興貴族の藤原不比等の娘を妻にしていたことからもともとは藤原家ともそれなりに上手くやっていたようですが、不比等の死後、長屋王が左大臣となり太政官の権力を掌握したあたりから不比等の子である藤原四兄弟の藤原武智麻呂(むちまろ)、房前(ふささき)、宇合(うまかひ)、麿(まろ)らと徐々に対立していくことになります。
決定的な対立のきっかけとなったのは聖武天皇の後継者をめぐる争いでした。
聖武天皇には県犬養広刀自(あがたのいぬかひのひろとじ)の産んだ安積皇子(あさかのみこ)と、もう一人、藤原不比等の娘である光明子(こうみょうし)の間にも皇子がいました。
藤原四兄弟は藤原家の血を引く光明子の産んだ皇子を天皇にして権力を握りたかったのですが、光明子の産んだ皇子は夭折してしまいます。
困った藤原四兄弟は、光明子を皇后にし場合によってはそのまま光明子を女性天皇としようと思っていたようです。
それに対して、律令を重視する長屋王が反対。
そこで藤原四兄弟は長屋王が左道(人を呪い殺す術)を学んで謀反を企てているという噂を流したうえで、藤原宇合が軍を動かして長屋王の屋形を包囲し、長屋王を自害に追い込みました。
これが俗にいう「長屋王の変」です。
この歌ではそんな長屋王の死に対して、「天皇のご命令に従いまだ殯の宮にお奉りするような時ではないけれど雲に隠れてしまわれました」と、遠回しな表現で非難しています。
作者である倉橋部大女(くらはしべのおほきみ)については詳しいことはよく分かっていないのですが、おそらくは長屋王の娘の一人だったのでしょう。
長屋王は自害に追い詰められたときに、正妃である吉備内親王と四人の子に毒を飲ませ、その後自身も服毒した(長屋王や吉備内親王たちの死の詳細については複数説あり)といいます。
おそらくは無実の罪を着せられたのであろう長屋王の変。
天皇の命で行われたことゆえに直接の非難は避けているものの、突如、父とその正妃たち家族を奪われた倉橋部大女の悲しさと怒りが、この歌からひしひしと伝わってきますね。
奈良県生駒郡平群町にある長屋王の御墓。
「道の駅 大和路へぐり」の前の道を一キロほど北に行った場所にあります。
(近鉄平群駅からだと徒歩で10分ほど)
長屋王は聖武天皇の命により、正妃の吉備内親王と共に生駒に葬られました。
長屋王の御墓の北西30メートルほどの住宅街の中に吉備内親王の御墓もあります。
長屋王の屋敷跡。(現・イトーヨーカドー奈良店)
藤原四兄弟は長屋王が謀反を企てているという噂を流したうえで、藤原宇合が軍を動かして長屋王の屋形を包囲し自害に追い込みました。
イトーヨーカドー奈良店に立つ長屋王屋敷跡を奉る祠。
イトーヨーカドー奈良店の西側の駐輪場側にあります。
1986年から1989年にかけて、奈良市二条大路南(平城宮跡の東南)の、奈良そごうの建設予定地から大量の木簡が発掘されこの場所が長屋王の邸宅跡であることが判明しました。
ただ、地元や研究者の反対を無視して奈良そごうの建築は続行。
長屋王邸の遺構は大部分が破壊されてしまいました…
奈良そごうはその後、そごうグループが負債を抱えたことから閉店。
(奈良ではそごうの経営破たんは長屋王の呪いだという説があるようですが、奈良店自体は黒字経営だったようです^^;)
奈良そごう閉店後の現在は、イトーヨーカドーが店舗に入って営業しています。
それにしてもバブル期で日本中が浮かれていた頃だったとはいえ、長屋王邸ほどの遺跡を破壊してしまうとは残念で仕方がありませんね。
人間とは、浮かれてしまうとロクなことをしない生き物なのでしょう。
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万葉集巻三
万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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