万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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また、家持の作れる歌一首并て短歌

わが屋前(やど)に 花そ咲きたる そを見れど 情(こころ)も行かず 愛(いと)しきやし 妹(いも)がありせば 水鴨(みかも)なす 二人並(ふたりなら)びゐ 手折(たを)りても 見せましものを うつせみの 借(か)れる身なれば 露霜(つゆしも)の 消(け)ぬるがごとく あしひきの 山道(やまぢ)を指(さ)して 入日(いりひ)なす 隠(かく)りにしかば そこ思(おも)ふに 胸こそ痛き 言ひも得(え)ず 名つけも知らず 跡(あと)もなき 世間(よのなか)にあれば せむすべも無し

巻三(四六六)
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わが家に妻の植えた花が咲いたけれど、それを見ても心は慰められない。愛しい妻がいたなら、水鴨のように二人並んで花も手折って妻に見せてあげたものを、現実は仮の身だから露や霜の消えるように、あしひきの山道のほうへ夕日の沈むように、妻は隠れてしまったのでそれを思うと胸が痛い。この悲しみをどうことばで言えばいいのか、どう名づければいいのかも知らず、跡もなく消える世の中なのでどうする術もないよ。
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この歌も巻三(四六二)の歌などと同じく、大伴宿禰家持(おほとものすくねやかもち)が亡くなった妻を思って詠んだ一首。
こちらはこれまでの歌と違い長歌となっています。

内容としてはこれまでの歌で歌ってきた妻の植えた撫子の花などに触れながら、「妻の植えた花が咲いたからといって心が慰められることはないよ」との切ない思いが吐露されていますね。
「妻が生きて隣にいたのならこの花を手折って見せてもあげるのに…」とは、妻の植えた撫子の花が咲いたのを見てから毎日のように思いつづけて来た家持の本心なのでしょう。

「現実は仮の身だから…跡もなく消える世の中なのでどうする術もないよ。」との諦めの気持ちも切なく響きます。
家持よりももう少し以前の時代の万葉人ならば黄泉の国から死者を迎えにゆく術もあるのではないかと信じていたようですが、この時代になるともはや死者を連れ戻す術の無いことを悟っていたかのようにも感じられますね。
人麻呂たちの時代から家持たちの時代に到る半世紀ほどの時間は、ひとびとの心に少なからぬ変化をもたらしていたのかも知れません。

家持の悲しみはさらに反歌に続きます。


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万葉集巻三


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万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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