万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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懸(か)けまくも あやにかしこし わご王(おほきみ) 皇子(みこ)の命(みこと) もののふの 八十伴(やそとも)の男(を)を 召(め)し集(つど)へ 率(あとも)ひ賜(たま)ひ 朝猟(あさかり)に 鹿猪(しし)ふみ起し 暮猟(ゆふかり)に 鶉雉(とり)ふみ立て 大御馬(おほみま)の 口抑(おさ)へ駐(と)め 御心(みこころ)を 見(め)し明(あき)らめし 活道(いくぢ)山 木立(こだち)の繁(しげ)に 咲く花も 移ろひにけり 世の中は かくのみならし 大夫(ますらを)の 心振(こころふ)り起こし 剣刀(つるきたち) 腰に取り佩(は)き 梓(あづさ)弓 靱(ゆぎ)取り負(お)ひて天地(あめつち)と いや遠長(とほなが)に万代(よろづよ)に かくしもがもと 憑(たの)めりし 皇子(みこ)の御門(みかど)の 五月蠅(さばへ)なす 騒(さわ)く舎人(とねり)は 白栲(しろたへ)に 服(ころも)取り着て 常(つね)なりし 咲(ゑま)ひ振舞(ふりま)ひ いや日異(ひけ)に 変(かは)らふ見れば 悲しきろかも

巻三(四七八)
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心にかけて思うのもはばかられる、わが大君、皇子の命が武士の多くの男たちを召し集め、率いて朝猟りをなさるとては鹿や猪を踏み立て捕え、夕猟りをなさるとては鶉や雉を踏み入って捕え、大御馬の口を抑えて留め、御覧になってその御心を晴れやかにされた活道山は、木立の繁って咲く花もいまは色あせてしまったことだ。世の中はかくのごときものであるらしい。勇敢な男たちの心を奮い立たせ、剣刀を腰に取り佩き、梓弓や靱を背負って、天地と共に永遠に万代にあってほしいと頼みにした皇子の宮殿に賑やかに集まっていた舎人たちは、今は白い喪の衣を着て、何時も変わらなかった笑顔や振る舞いが、日ごとに変わってゆくのを見ると悲しいことだ。
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この歌も安積皇子(あさかのみこ)が亡くなられた時に大伴家持(おほとものやかもち)の詠んだ六首の挽歌のうちの一首です。
「活道山(いくぢやま)」は現在では所在が不明ですが、安積皇子の邸宅があった山でしょうか。

そんな「皇子が朝猟りをし、夕猟りをしては心を晴れやかにされた活道山に咲く花も今は色あせてしまった」と、安積皇子の死によって山の賑わいすらも無くなってしまったことを嘆いています。
「世の中はかくのごときものであるらしい。」とのあきらめにも似た感慨は、仏教的思想の影響でしょうか。

「天地と共に永遠に万代にあってほしいと頼みにした皇子」との言葉からは、いかに家持たち旧貴族派が安積皇子に期待していたかがよくわかりますね。
そして、「皇子の宮殿に賑やかに集まっていた舎人たちは、今は白い喪の衣を着て、何時も変わらなかった笑顔や振る舞いが、日ごとに変わってゆくのを見ると悲しいことだ。」と、皇子の死によってすべてが失われて変わってしまった哀しみを詠い嘆く挽歌となっています。


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万葉集巻三


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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