万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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丹比真人笠麿(たぢひのまひとかさまろ)の筑紫国(つくしのくに)に下(くだ)りし時に作れる歌一首并て短歌

臣女(おみのめ)の 匣(くしげ)に乗れる 鏡(かがみ)なす 御津(みつ)の浜辺(はまべ)に さにつらふ 紐解(ひもと)き離(さ)けず 吾妹子(わぎもこ)に 恋ひつつ居(を)れば 明(あ)け闇(ぐれ)の 朝霧隠(ぎりごも)り 鳴く鶴(たづ)の ねのみし泣かゆ わが恋ふる 千重(ちへ)の一重(ひとへ)も 慰(なぐさ)もる 情(こころ)もありやと 家のあたり わが立ち見れば 青旗(あをはた)の 葛城(かつらき)山に たなびける 白雲隠(しらくもがく)る 天(あま)ざかる 夷(ひな)の国辺(くにへ)に 直向(ただむか)ふ 淡路(あはぢ)を過ぎ 粟島(あは)を 背(そがひ)に見つつ 朝なぎに 水手(かこ)の声呼び 夕なぎに 梶の音(と)しつつ 波の上(うへ)を い行きさぐくみ 岩(いは)の間(ま)を い行き廻(もとほ)り 稲目都麻(いなびつま) 浦廻(うらみ)を過ぎて 鳥じもの なづさひ行けば 家の島 荒磯(ありそ)のうへに 打ちなびき 繁(しじ)に生(お)ひたる 莫告藻(なのりそ)が などかも妹(いも)に 告(の)らず来(き)にけむ

巻四(五〇九)
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宮女が匣に乗せる鏡のような、御津の浜辺にほの赤い紐も解かずにわが妻を思い出しておれば、朝明けの霧に隠れて鳴く鶴のように泣いてしまうよ。私の妻を慕う気持ちの千分の一でも慰められるかと、家の方角を見れば青旗のように連なる葛城山の白雲に隠れてなにも見えない。天の彼方の遠い国へまっすぐに向い、淡を過ぎ、淡島を背に見つつ、朝凪に水手の声を聞きながら、夕凪に梶の音を響かせつつ、波の上を船で進み、岩の間をめぐり、稲目都麻の浦を過ぎて、水鳥のように苦労して進んでゆくと、家島の荒磯の上に打ち靡いて生い繁る莫告藻のように、何故に妻に別れの言葉も告げずに来てしまったのだろう。
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この歌は丹比真人笠麿(たぢひのまひとかさまろ)が筑紫国(つくしのくに)に派遣された時に妻を思って詠んだ一首。
「鏡(かがみ)なす」は「かがみ」の「み」から「御津(みつ)」を引き出す枕詞。
そんな見津の浜辺で妻を思い出しては涙が出てしまうとの、家に残してきた妻を慕わしく思う気持ちが前半で詠われています。

「莫告藻(なのりそ)」は「告げる」などにかかる枕詞で、後半は淡路の海を船で行く様子を詠い、そんな荒磯の上に生える「莫告藻(なのりそ)」から、何故妻に別れの言葉を告げずに来てしまったのだろうと、もっと妻に多くの言葉を掛けてから来ればよかったとの後悔の気持ちが表現されています。

この歌も家に残してきた妻のことを一心に思うことで旅先での不安な心を鎮めようとしたいわゆる旅の鎮魂歌な訳ですが、ここでは相聞歌として集録されています。
まあ、旅先で妻を思う歌も心の相聞ではあるので、そのような判断から相聞歌とされたのでしょう。
妻を残して独り筑紫の国に赴く丹比真人笠麿の心情がよく表れている一首ですよね。


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万葉集巻四


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万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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