万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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門部王(かどべのおほきみ)の恋の歌一首

飫宇(おう)の海の潮干(しほひ)の潟(かた)の片恋(かたもひ)に思ひや行かむ道の長道(ながて)を

右は、門部王の、出雲守(いづものかみ)に任(まけ)らえし時に、部内(ぶない)の娘子(をとめ)を娶(ま)く。いまだ幾時(いくばく)ならずして、既(すで)に往来(かよひ)絶えたり。月を累(かさ)ねし後に、また愛(いつくしみ)の心を起こす。よりてこの歌を作りて娘子に贈到(おく)れり。

巻四(五三六)
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飫宇の海の引き潮に現れる潟のように片思いしながら行こう、長い道のりを。
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この歌は出雲守(いづものかみ)として出雲に赴任していた門部王(かどべのおほきみ)が、その土地の娘子(をとめ)に贈った一首。
門部王と呼ばれる人物は同じ時期に二人いたらしく歌などからどちらの作者か区別がつきにくいのですが、この歌の門部王はおそらく長親王(長皇子)の孫で後に臣下に下り大原真人姓を賜った人物かと思われます。

左注によるとそんな門部王が赴任先の出雲の地の娘子と恋仲になって結婚し、いくらも経っていないうちに通わなくなってしまったそうです。ところがしばらくした後、また愛しさが湧いてきてこの歌をその娘子に贈ったのだそうです。

つまりは一時冷めた恋の熱が再燃したわけですが、ちょっと勝手といえば勝手な話ですよね。
門部王自身もそれはよく自覚していて、それゆえに娘子への「片思」と詠ったのでしょう。

「飫宇(おう)の海」は島根県にある海。
「潟(かた)」は干潟。
そんな「飫宇の海の引き潮に現れる潟のように片思いしながら行こう、長い道のりを。」と、「潟(かた)」の響きから「片思(かたもひ)」につづけて詠んだ片恋の恋歌なわけですが、「道の長道」というのは実際の距離というよりもいったん離れてしまった自分と娘子の心の距離であったのかも知れませんね。


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万葉集巻四


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