万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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神亀(じんき)元年甲子(かふし)の冬十月、紀伊国(きのくに)に幸(いでま)しし時に、従駕(みとも)の人に贈らむがために、娘子(をとめ)に誂(あとら)へられて作れる歌一首并て短歌
笠朝臣金村(かさのあそみかなむら)


大君の 行幸(みゆき)のまにま 物部(もののふ)の 八十伴(やそとも)の雄(を)と 出(い)で行きし 愛(うつく)し夫(つま)は 天飛(あまと)ぶや 軽(かる)の路(みち)より 玉襷(たまだすき) 畝火(うねび)を見つつ 麻裳(あさも)よし 紀路(きぢ)に入り立ち 真土山(まつちやま) 越(こ)ゆらむ君は 黄葉(もみぢば)の 散り飛ぶ見つつ 親(にきびに)し われは思はず 草枕(くさまくら) 旅を宜(よろ)しと 思ひつつ 君はあらむと あそそには かつは知れども しかすがに 黙然(もだ)もありえなば わが背子(せこ)が 行(ゆき)のまにまに 追はむとは 千遍(ちたび)おもへど 手弱女(たわやめ)の わが身にしあれば 道守(みちもり)の 問(と)はむ答を 言ひ遣(や)らむ 術(すべ)を知らにと 立ちて爪(つま)づく

巻四(五四三)
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天皇の行幸に従って、多くの廷臣たちとともに出立していった愛しい夫は、空を飛ぶ軽の路から玉襷をかける畝火の山を見つつ、麻の裳もよい紀の国に入り立ち、真土山を越えているだろう君は、黄葉の散るのを見て楽しみ、親しんだ私のことも忘れて、草を枕の旅をむしろ楽しみつつ君はいるだろうとうすうす知りながら、それでも黙っていることは出来ないので愛しい君が出掛けて行ったとおりに追いかけようと、何度も思ったけれどか弱い女のわが身では道々の番人がとがめるのをどうすればいいのか、術のなく、立ち上がってはみるけれど躊躇ってしまいます。
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この歌は、聖武天皇の行幸に従って紀伊の国に旅立った夫のためにと娘子(をとめ)に頼まれて、笠朝臣金村(かさのあそみかなむら)が代作して詠んだ長歌。
ただ、笠金村が個人に頼まれてこれほどの長歌を詠むというのは不思議な気もしますし、あるいはこの娘子は実在せず、金村自身が娘子の立場に立って詠んだ虚構歌なのかも知れませんね。

一見、夫の無事を祈るための伝統的な呪術歌としての内容に読めますが、よく読むと「黄葉(もみぢば)の 散り飛ぶ見つつ 親(にきびに)し」や「旅を宜(よろ)しと 思ひつつ 君はあらむ」などの表現が見られ、この娘子の夫が旅を楽しむ余裕を持っているらしいことが見て取れます。
おそらく、万葉集の時代も聖武天皇の治世の頃になると律令制が行き届き、各地への道が整備されて行幸などの危険もかつてほどにはなくなってきていたのでしょう。

そんな時代の気分が見て取れて、万葉人の意識の変化が感じられる貴重な一首のようにも思えます。


和歌山県橋本市隅田町真土の古道飛び越え石への降り口にあるこの歌の歌碑。



麻裳よし 紀路に入り立ち 真土山 越ゆらむ君は 黄葉の…


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万葉集巻四の他の歌はこちらから。
万葉集巻四


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価637円〜〜1101円(税込み参考価格)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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