万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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大伴坂上郎女(おほとものさかのうへのいらつめ)の怨恨(うらみ)の歌一首并て短歌
押し照(て)る 難波(なには)の菅(すげ)の ねもころに 君が聞(きこ)して 年深く 長くし言へば まそ鏡(かがみ) 磨(と)ぎし情(こころ)を 許してし その日の極(きは)み 波のむた なびく玉藻(たまも)の かにかくに 心は持たず 大船(おほふね)の たのめる時に ちはやぶる 神や離(さ)くらむ うつせみの 人か禁(さ)ふらむ 通(かよ)はしし 君も来まさず 玉梓(づさ)の 使も見えず なりぬれば いたもすべ無み ぬばたまの 夜(よる)はすがらに 赤らひく 日も暮るるまで 嘆けども しるしを無み 思へども たづきを知らに 幼婦(たわやめ)と 言はくも著(しる)く 手童(たわらは)の ねのみ泣きつつ たもとほり 君が使を 待ちやかねてむ
巻四(六一九)
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押し渡って照る難波の地の菅の根のように、ねんごろにあなたが声をかけてくださり、年久しく末永くとおっしゃるので、真澄の鏡を磨くように磨いだこころを許して、その日から波に揺れる玉藻のようにあれこれと動揺するこころは持たず、大船のようにあなたを頼みにしているときに、荒々しい神が引き裂こうとするのか、世の人が邪魔するのか、今まで通って来たあなたは来なくなり、玉梓の使も姿を見せなくなってしまったので、どうする術もなく暗闇の夜は一晩中、明るい昼は暮れるまで嘆くけれど効果なく、物思いしても手段もなく、か弱い女さながらに、子供のように泣きに泣きつつさ迷って、あなたからの使いを待つしかないのでしょうか…
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この歌は大伴坂上郎女(おほとものさかのうへのいらつめ)が詠んだ恋の怨恨(うらみ)の長歌。
年久しく末永く共に暮らそうと声をかけてくれた男を頼りにしていたのに、次第に男が疎遠になって、嘆き悲しみ男の使の来るのを待つしかない女心の切なさが素敵に詠われています。
歌の前半で男が声をかけてくれた時の喜びを詠って大船に乗っているかのように頼りにしきっていた様子を表現することで、後半の不安で切ない気持ちがよりいっそう強調されていますね。
まあ、ほんとうのところはこの歌は「怨恨(うらみ)の歌」という主題で詠まれた題詠歌であるらしく、実際に坂上郎女がこのような恋をしていたわけではないようですが、それにしても男の存在をこころの拠り所にして待つしかない女性の心情がよく表現されていますよね。
あるいは恋愛経験の豊富な坂上郎女だからこそ詠めた題詠といったところでしょうか。
坂上郎女は大伴家の刀自(とじ)として女性の立場から大伴家を支えた才女のイメージがありますが、その強さの根本にはこの歌に詠まれたような切ない恋を何度も繰り返してきた経験の積み重ねがあったのかも知れませんね。
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