万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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好去好来(かうきよかうらい)の歌一首 反歌二首

神代より 言(い)ひ伝(つ)て来(く)らく そらみつ 倭(やまと)の国は 皇神(すめがみ)の 厳(いつく)しき国 言霊(ことだま)の 幸(さき)はふ国と 語り継(つ)ぎ 言ひ継かひけり 今の世の 人も悉(ことごと) 目の前に 見たり知りたり 人多(さは)に 満ちてはあれども 高光る 日の朝廷(みかど) 神(かむ)ながら 愛(めで)の盛りに 天(あめ)の下(した) 奏(まを)し給ひし 家の子と 撰(えら)び給ひて 勅旨(おほみこと)〔反(はん)して、大命(おほみこと)といふ〕 戴(いただ)き持ちて 唐(もろこし)の 遠き境に 遣(つかは)され 罷(まか)り坐(いま)せ 海原(うなはら)の 辺(へ)にも奥(おき)にも 神(かむ)づまり 領(うしは)き坐(いま)す 諸(もろもろ)の 大御神(おほみかみ)たち 船舳(ふなのへ)に〔反して、ふなのへにと云ふ〕 導き申(まを)し 天地の 大御神たち 倭(やまと)の 大国霊(おほくにみたま) ひさかたの 天(あま)の御空(みそら)ゆ 天翔(あまかけ)り 見渡し給ひ 事了(ことをは)り 還らむ日には またさらに 大御神たち 船舳(ふなのへ)に 御手(みて)うち懸けて 墨繩(すみなは)を 延(は)へたる如く あちかをし 値嘉(ちか)の岬(さき)より 大伴の 御津(みつ)の浜辺(はまび)に 直泊(ただは)てに 御船(みふね)は泊(は)てむ 恙無(つつみな)く 幸(さき)く坐(いま)して 早帰りませ

巻五(八九四)
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神の御代より言い伝え来ることには、空に満ちる大和の国は、神である天皇の統治される厳しき国で、言霊の幸ある国と語り継ぎ、言い継いで来た。それは今の世の人々もことごとく目の前に見て知っている。人は多く満ちているのに、高く輝く日の朝廷で神であられる天皇が最も愛され、天下を統治された家柄の子として、あなたをお選びになられて、あなたは天皇のお言葉〔勅旨は、大命(おほみこと)と読む〕を奉戴して、唐の遠き国土に遣わされ出立されます。大海の岸にも沖にも神としてとどまり、支配される大御神たちは、船の先〔船舳は、フナノヘと読む〕に立って先導し申し、天地の大御神たちは、大和の大国神をはじめ、はるか彼方の天の御空から飛び翔けて見渡しなさるでしょう。そして無事に使命を終えて帰られる日には、またさらに大御神たちは船の先に御手をかけて、墨縄を引きのばしたように、あちかをし値嘉の岬を通って、大伴の御津の浜辺にまっすぐに泊まるべく御船は帰港するでしょう。つつがなく幸せにいらっしゃって、早くお帰りください。
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この歌は山上憶良(やまのうへのおくら)が遣唐使として唐へ渡る丹比広成(たぢひのひろなり)に贈った送別歌です。
この時、丹比広成は同族である山上憶良の屋敷を訪れていたようですね。

「好去(かうきよ)」は、「遊仙窟(唐の小説)」などにある別れの言葉。
「好来(かうらい)」は、無事に帰る意味で、題詞の好去好来(かうきよかうらい)はこの二つの言葉を組み合わせたもの。

歌の内容はまず冒頭で、大和の国は天皇が統治される由緒ある国で言霊の幸ある国と人々が語り継いで来たことを詠っています。
そして、そんな国を統治される天皇が唐への使いとして特別にあなたをお選びになったのだと、その栄誉を讃えています。
さらには、その旅路に天地の大御神や大和の大国神たちの加護が必ずやあるだろうことを詠い、帰りの船旅にも同じように神々の加護を受けて無事に帰港出来るだろうと、広成たち遣唐使の不安を和らげる言葉をつづけています。
そして、「つつがなく幸せにいらっしゃって、早くお帰りください。」との言葉で遣唐使たちを送り出し、歌の最期を締めくくっています。

この当時、大陸の最新の文化を学ぶために朝廷は何度か唐に使者(遣唐使)を送りましたが、その旅路はかなりの危険を伴うものでした。
この歌はそんな遣唐使として広成を送リ出す山上憶良が詠んだものですが、山上憶良もかつて遣唐使として大陸に渡った経験があり、無事に帰国した憶良のこれらの励ましの言葉はこれから大陸に渡る広成にとってはなによりの励ましとなったことでしょう。


奈良県天理市の大和神社(おおやまとじんじゃ)にあるこの歌の歌碑。



添碑。



添碑にはこの「好去好来の歌」の長歌と反歌が現代語訳とともに記されています。



大和神社拝殿。



大和神社の御由縁にはこの神社で遣唐使たちが航海の安全を祈願したことや、この万葉集の「好去好来の歌」についても解説されています。



大和神社で授与していただいた戦艦大和の土鈴(初穂料1,000円)。
大和神社の御祭神大国魂大神は戦艦大和の守護神として艦内に祀られていたそうです。


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万葉集巻五の他の歌はこちらから。
万葉集巻五


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価637円〜〜1145円(税別)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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