万葉集入門
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現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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十年戊寅(ぼいん)に元興寺の僧(ほふし)のみづから嘆ける歌一首

白珠(しらたま)は人に知らえず知らずともよし 知らずともわれし知れらば知らずともよし

右の一首は、或は云はく「元興寺の僧の、独り覚(さと)りて智(ち)多けれども、顕聞(あらは)れず、衆諸(もろもろ)のひと狎侮(あなづ)りき。これによりて、僧この歌を作りて、みづからの身の才(ぜえ)を嘆く」といへり。

巻六(一〇一八)
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白珠は人に知られないよ知られなくてもいいさ。知られなくても私さえ知っていれば知られなくてもいいさ
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この歌は元興寺の僧が詠んだ一首です。
こちらは短歌ではなく、旋頭歌(せどうか)という和歌の形式となっています。
旋頭歌とは、五七七、五七七を二回繰り返す三十八音からなる詩形で、もともとは上三句(五七七)と下三句(五七七)を二人の人物で唱和する問答歌であったと思われますが、後にはこの歌のように一人の人物が上下を合わせて自問自答するような形で詠むようになったようですね。

左注によると、元興寺に独りで悟りを開き優れた知識を持っていた僧がいましたが、人々にその博識を知られていなかったために軽んじられていたそうです。
そこでその僧はこの歌を詠んで自らの才を嘆いたとのことです。

歌の内容は「白珠は人に知られないよ知られなくてもいいさ。知られなくても私さえ知っていれば知られなくてもいいさ」と、自らを「白珠(貝の中に隠れている真珠)」に譬えて詠んだ一首となっています。
たとえ他人に知られなくても自分さえその価値ある存在を知っていればいいとの自負と、同時に悔しさがにじみ出ているなんとも人間味のある一首ですよね。

「知られなくてもいい」とこのような歌を詠むこと自体が「他人に知られたい」という強い欲求の裏返しであり、僧侶がそのような俗な欲求を持っていること自体が他人に軽んじられる理由でもあるのでしょうけれど、そこもまたなんとも人間らしくて面白い一首のようにも感じます。



奈良市元興寺(極楽堂)の境内にあるこの歌の歌碑。



元興寺極楽堂。



奈良町資料館にもこの歌の歌碑があります。



奈良町資料館(入場無料)。
歌碑は入り口を入ってすぐの右側にあります。


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万葉集巻六の他の歌はこちらから。
万葉集巻六


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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