万葉集入門
万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

スポンサード リンク


十一年己卯(きばう)、天皇の高円(たかまと)の野に遊猟(みかり)し給ひし時に、小(ちひ)さき獣都里(けものみやこ)の中に泄走(せつそう)す。ここに適勇士(たまたまますらを)に値(あ)ひて生きながらに獲(え)らえぬ。即ちこの獣(けもの)を以(も)ちて御在所(おほましますどころ)に献上(たてまつ)るに副(そ)へたる歌一首〔獣の名は、俗(よ)にむざさびといふ〕

大夫(ますらを)の高円山(たかまとやま)に迫(せ)めたれば里(さと)に下(お)りけるむざさびそこれ

右の一首は、大伴坂上郎女の作なり。ただ、いまだ奏(そう)を経(へ)ぬに小さき獣死斃(たふ)れぬ。これに因りて歌を献(たてまつ)ることを停(とど)む。

巻六(一〇二八)
-----------------------------------------------
大夫が高円山に追い詰めたので里に下りて来たむささびです。これは
-----------------------------------------------

この歌は大伴坂上郎女(おほとものさかのうへのいらつめ)が詠んだ一首です。
あらためて解説しておきますが、大伴坂上郎女は大伴旅人(おほとものたびと)の異母妹で、万葉集後期を代表する女性歌人。
大伴家持(おほとものやかもち)の叔母でもあり、後に家持が坂上郎女の娘の大嬢(おほをとめ)を妻にしたことから義理の母でもあります。

そんな坂上郎女が詠んだ歌ですが、題詞によると、天平十一(七三九)年に聖武天皇(しやうむてんわう)が高円山で御猟をなされた時にむささびが山から逃げ下りて来て市街を逃げ回ったのを、勇者が捕えたそうです。
「むざさび」は「むささび」のこと。
「高円山(たかまとやま)」は奈良市の東にある春日山の南にある山で、ここに聖武天皇の離宮があったともいわれています。
この時、坂上郎女たち女官は麓の市街に控えていたようで、逃げ回るむささびに女官たちはずいぶん大騒ぎをしたといいます。

結局、むささびは勇者によって捕えられ、その捕えたむささびを天皇に献上するために坂上郎女が添えて詠んだ歌がこの一首。
歌の内容は「大夫が高円山に追い詰めたので里に下りて来たむささびです。これは」と、ほぼ事実をそのまま詠ったものですが、「大夫が高円山に追い詰めた」という部分に御猟を讃えている天皇への賞讃の歌ともいえるでしょうか。

ただし、左注によると、天皇へ献上する前にむささびが死んでしまったために、けっきょくこの歌も奏上されることはなかったようですね。
そんな天平時代の長閑な御猟の一日を伝えて、なんとも興味深い一首ですよね。


飛火野から見た高円山。
大文字焼きの為に三角に切り開かれた山肌が特徴的な山です。



高円山展望休憩所からの眺め。
高円山には奈良奥山ドライブウェイ(有料道路)を利用して登ることが出来ます。


スポンサード リンク


関連記事
万葉集巻六の他の歌はこちらから。
万葉集巻六


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

万葉集入門(トップページ)へ戻る

当サイトはリンクフリーです、どうぞご自由に。
Copyright(c) 2015 Yoshihiro Kuromichi (plabotnoitanji@yahoo.co.jp)


スポンサード リンク


欲しいと思ったらすぐ買える!楽天市場は24時間営業中

Amazon.co.jp - 通販