万葉集入門
万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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神亀元年甲子(かふし)の冬十月五日、紀伊国(きのくに)に幸(いでま)しし時に、山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひと)の作れる歌一首并て短歌

やすみしし わご大君(おほきみ)の 常宮(とこみや)と 仕へまつれる 雑賀野(さひがの)ゆ 背向(そがひ)に見ゆる 沖つ島 清き渚(なぎさ)に 風吹けば 白波騒(さわ)き 潮干(ふ)れば 玉藻(たまも)刈りつつ 神代より 然(しか)そ尊(たふと)き 玉津島山(たまつしまやま)

巻六(九一七)
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八方をお治めになるわが天皇の永遠の宮として、そこにわたしが仕える雑賀野から背後に見える沖の島、その清き渚に風が吹けば白波が騒ぎ、潮が引けば美しい藻を刈りながら、神代からこのように尊いことよ、玉津島の島々は
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この歌は神亀元年甲子(かふし)の冬十月五日に、聖武天皇(しやうむてんわう)が紀伊国(きのくに)に行幸された時に山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひと)が詠んだ長歌です。
この歌と反歌の後に記されている左注に「右は、年月を記さず。ただ玉津島に従駕(おほみとも)すといへり。因りて今行幸(いでまし)の年月を検(かむが)へ注(しる)して以ちて載す。」とあることから、題詞の年月は後の世に史書などをもとにして編者によって付け加えられたもののようですね。

歌の内容は典型的な儀礼歌で、まず天皇を讃え、その永遠の宮である雑賀野から背後に見える沖の島…と、行幸先の宮から見える玉津島の島々のことを詠っています。
「雑賀野(さひがの)」は和歌山市西、雑賀崎の野で、このあたりに玉津島の宮があったのでしょう。

さらに「その清き渚に風が吹けば白波が騒ぎ、潮が引けば美しい藻を刈りながら…」と具体的に描写し、「神代からこのように尊いことよ、玉津島の島々は」と土地讃めの言葉で締めくくっています。

万葉集の時代も聖武天皇の頃になると土地の神々に対する信仰心のようなものもずいぶんと薄れていたようですが、それでも行幸先で土地讃めの歌を詠う儀式などはまだまだ消えずに残っていたようですね。
このあたりは科学が進歩しても現代人が初詣などの宮参りなどのときには神々の存在を深く意識したり、占いなどを気にしてしまう感覚で想像してもらえれば近いかと思います。

万葉集巻六の冒頭にあるこれらの旅先での儀礼歌は単純で面白味のないものと感じられるかも知れませんが、その中に詠われている土地や自然の風景の賛美など、万葉人が土地讃めの信仰として何を賛美し讃えたのかなどにも注目しながら読んでいただくと、また違った視点でこれらの歌を楽しむことが出来るかと思います。


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万葉集巻六の他の歌はこちらから。
万葉集巻六


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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