万葉集入門
万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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神亀二年乙丑(いつちう)の夏五月、吉野の離宮(とつみや)に幸しし時に、笠朝臣金村の作れる歌一首并せて短歌

あしひきの み山もさやに 落ち激(たぎ)つ 吉野の川の 川の瀬の 清きを見れば 上辺(かみへ)には 千鳥数(しば)鳴き 下辺(しもへ)には かはづ妻呼ぶ ももしきの 大宮人(おほみやびと)も をちこちに 繁(しじ)にしあれば 見るごとに あやに羨(とも)しみ 玉葛(たまかづら) 絶ゆること無く 万代(よろづよ)に かくしもがもと 天地(あめつち)の 神をそ祈る 畏(かしこ)くあれども

巻六(九二〇)
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あしひきの山もさやかに、落ちては流れる吉野の川の、川の瀬の清き流れを見れば、上流には千鳥がしきりに鳴き、下流には蛙が妻を呼んでいる。ももしきの大宮人たちもあちこちにたくさん遊んでいるのを見るたびに、心惹かれることだ。美しい葛の蔓草のように絶えることなく、万年の後にもかくあれと、天地の神に祈ります。畏れ多いことだが。
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この歌は天皇の吉野行幸に従駕した笠朝臣金村(かさのあそみかなむら)の詠んだ一首。
題詞によると神亀二年五月とあるので、聖武天皇(しやうむてんわう)の行幸時の歌なのでしょう。

歌の内容は、まず冒頭で吉野の山や吉野川の清かな様を詠って讃え、その川の千鳥や蛙の鳴き声を詠うことで吉野の土地の豊かさを褒め讃えています。
そして大宮人の賑やかに遊ぶ様を詠い、美しい葛の蔓草のように絶えることなく、万年の後にもかくあれと天地の神に祈って一首を締めくくっています。

この歌もそうですが笠金村の歌は天皇の行幸従駕時の儀礼歌でありながら、天皇や朝廷そのものの権威はあまり前面に出さずに土地の美しさや豊かさを表現した土地讃めに焦点が置かれているのが特徴のように感じます。
この点は、同時代の歌人でありながら柿本人麿の系譜を色濃く受け継いだ山部赤人の歌との明確な違いであり、その辺りを意識しながらこの二人の歌を読み比べてみるのも面白いかも知れませんね。


吉野宮滝の風景。



奈良県吉野町の宮滝にある史跡宮滝遺跡。
中荘小学校(現在は廃校)の西、宮滝駐在所前の土地は聖武天皇の時代の離宮があった場所と言われています。



聖武天皇期の宮滝遺跡。



吉野離宮の解説板。


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万葉集巻六の他の歌はこちらから。
万葉集巻六


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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