万葉集入門
万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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大伴の田村家(たむらのいへ)の大嬢の、妹(いろと)坂上大嬢に与へたる歌一首

茅花抜(ちばなぬ)く浅茅(あさぢ)が原のつぼすみれいま盛りなりわが恋ふらくは

巻八(一四四九)
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茅花を抜いて食べる浅茅が原に生えているつぼすみれは今花盛りです。私があなたを恋しく思うこころもまた…
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この歌は大伴田村家大嬢(おほとものたむらのいへのおほをとめ)が、異母妹の大伴坂上大嬢(おほとものさかのうへのおほをとめ)に贈った一首。
この二人は共に大伴宿奈麿の子で、母親違いの姉妹でした。
田村大嬢は坂上大嬢よりもずいぶんと年上であったようですが、それゆえか異母妹である坂上大嬢をずいぶんと愛おしく思っていたようですね。

そんな田村大嬢が坂上大嬢に贈った一首ですが「茅花を抜いて食べる浅茅が原に生えているつぼすみれは今花盛りです。私があなたを恋しく思うこころもまた…」と、浅茅が原に生えるつぼすみれの花が今真っ盛りなように妹を恋しく思う自分のこころもまた真っ盛りであると訴えています。

茅花(ちばな)はチガヤの穂花のことで芽吹いたばかりのチガヤの穂花を口に含んで噛むと甘い味がすることから「茅花を抜く」は「茅花を抜いて食べる」意味。
「浅茅が原」はそんなチガヤの生える野原のこと。
「つぼすみれ」は現在のツボスミレのことでしょうか。
つまりは三句目の「つぼすみれ」までが、四句目以降の「私があなたを恋しく思うこころもまた真っ盛りである」を導き出す序詞としての譬えになっているわけですね。

まあ、よく似た譬えの歌は万葉集の中に他にもありますが、田村大嬢の異母妹への深い愛情を詠ってなかなかに素敵な一首ですよね。


ツボスミレ。



ツボスミレの花は他のスミレ類に比べて横に平べったい独特の形の花を咲かせます。



チガヤ。
チガヤは春から夏にかけて白い穂のような花(茅花)を咲かせます。
チガヤの芽吹いたばかりの茅花は口に含んで噛むと甘い味がすることから、万葉時代から食用に利用されていたようですね。



チガヤの花を食べるときは春のこのような葉に包まれたまだ穂花を出していない芽吹いたばかりのものを選びます。
(完全に穂の出た茅花を口に入れると、口の中が大変なことになるので気をつけましょう^^;)



穂を包んでいる葉を上手く剥いたらこんなちょっと湿ったような穂花が出て来るので、これをガムのように口に含んで噛むと仄かな甘さが口の中に広がります。
ガムとおなじように噛み終わった茅花は飲み込まずに捨てます。
まあ、はっきり言って甘いものに慣れた現代人にはまったく物足りない薄口の甘さですが、興味のある方はぜひ一度口にして万葉人の気分をぜひ味わってみてください(笑)


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万葉集巻八


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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