万葉集入門
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現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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紀女郎(きのいらつめ)の歌一首 名を小鹿(をしか)と曰(い)へり

闇夜(やみ)ならば宜(うべ)も来(き)まさじ梅の花咲ける月夜(つくよ)に出(い)でまさじとや

巻八(一四五二)
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闇夜ならばなるほど来られないのも仕方がないでしょう。でも梅の花も美しいこんな月夜にも来られないというのですか
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この歌は紀女郎(きのいらつめ)の詠んだ一首です。
題詞にもあるように紀女郎は名を小鹿(をしか)と言い、安貴王(あきのおほきみ)の妻です。

そんな紀女郎が詠んだ一首ですが「闇夜ならばなるほど来られないのも仕方がないでしょう。でも梅の花も美しいこんな月夜にも来られないというのですか」と、梅の花も美しく見える月夜にも通ってこない男を責めた内容となっています。
万葉集の時代の男女の逢瀬は夜に男が女の家に通って行く形が普通でした。
(これは結婚した男女でもしばらくは妻問い婚という形でこのように夫が妻の家に通っていたようです。)

でも文明の発達した現代と違い、夜は月が出ないとほんとうに真っ暗でしたから月のない夜には外に出ることも出来なかったわけですね。
それゆえに「闇夜ならばなるほど来られないのも仕方がないでしょう。」となるわけですが、この歌の時には月夜であるにも関わらず男が来れないとの使いを寄こしたのでしょう。
「梅の花も美しいこんな月夜にも来られないというのですか」との紀女郎の問い掛けに男も困ったことでしょうね。

この歌についてははっきりとした背景はなにも分かりませんが、これはやはり紀女郎が夫である安貴王に贈った一首でしょうか。
ただ、紀女郎は大伴家持(おほとものやかもち)と親しい交流があり、若い家持との間によく戯れの恋の贈答歌を交し合ったりもしていたので、あるいはこの歌も家持をからかって贈ったものだったのかも知れませんね。

そんないろいろな背景を想像させてくれると同時に、月の明かりの中の梅の花が目に浮かんでくるような美しい魅力を持った一首のように思います。


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万葉集巻八


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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