万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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天平五年癸酉(きいう)の春閏(うるふ)三月
笠朝臣金村(かさのあそみかなむら)の入唐使(にふたうし)に贈れる歌一首并て短歌
玉襷(たまだすき) 懸けぬ時無く 息(いき)の緒(を)に わが思ふ君は うつせみの 世の人なれば 大君(おほきみ)の 命(みこと)かしこみ 夕されば 鶴(たづ)が妻呼ぶ 難波潟(なにはがた) 三津(みつ)のア(さき)より 大船に 真梶繁貫(まかぢしじぬ)き 白波の 高き荒海(あるみ)を 島伝ひ い別れ行かば 留(とど)まれる われは幣(ぬさ)引き 斎(いは)ひつつ 君をば待たむ はや還りませ
巻八(一四五三)
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美しい襷を、息をしないときのないようにずっと心に懸けて、わたしが大切に思うあなたは現実の世の人なので、天皇のご命令を畏んで、夕べには鶴が妻を呼んで鳴く難波潟の三津のアから、大船に梶を貫いて、白波の高く立つ荒海を島伝いに別れて旅立って行かれれば、後に残った私は幣を手に取り、神を奉ってお祈りしつつあなたを待ちましょう。早く帰って来てください。
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この歌は笠朝臣金村(かさのあそみかなむら)が遣唐使に贈った長歌です。
笠金村は奈良時代の宮廷歌人で、柿本人麿(かきのもとのひとまろ)の時代の伝統的な朝廷讃歌の歌をそのまま引き継いだような作風が特徴的な歌人。
天平五(七三三)年、聖武天皇(しやうむてんわう)は多治比広成(たぢひのひろなり)を大使として唐の国に使節団を送りました。
遣唐使は海外情勢を知る為や優れた文化などを取り入れるために、当時の最先端の国であった唐に贈られた朝廷の公式な使節団のこと。
この歌はその時に笠金村が遣唐使に贈った送別歌です。
歌の内容はまず「美しい襷を懸けるようにずっと心に懸けてわたしが大切に思うあなた…」と、遣唐使のことを肌身離さない美しい襷に譬えて大切に思う気持ちを訴えています。
さらに「そんなあなたが天皇のご命令を畏んで、夕べには鶴が妻を呼んで鳴く難波潟の三津のアから大船に梶を貫いて、白波の高く立つ荒海を島伝いに別れて旅立って行かれたならば…」と、これから唐の国に向かって旅立つ相手の旅路に想いを馳せて案じています。
そして最後に「後に残った私は幣を手に取り、神を奉ってお祈りしつつあなたを待ちましょう。早く帰って来てください。」と、無事の帰りを祈って待っている自分のためにも早く帰って来てくださいと、旅の無事と帰島を祈った一首となっています。
笠金村が遣唐使の誰にこの歌を贈ったのかははっきりとしませんが、あるいは遣唐使たちの出立を祝う宴の際などに餞別の言霊として披露した歌だったのかも知れませんね。
どことなく妻が夫の旅の無事を祈るような内容にも思えて、笠金村の唱和するこの歌を聞いた遣唐使たちはそれぞれに自身の大切な妻たちのことを思い出しながら旅への決意を新たにしたのではないでしょうか。
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万葉集巻八
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万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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