万葉集入門
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（解説：黒路よしひろ）

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藤原朝臣広嗣（ひろつぐ）の桜の花を娘子（をとめ）に贈れる歌一首

この花の一枝（ひとよ）のうちに百種（ももくさ）の言（こと）そ隠（こも）れるおほろかにすな

巻八（一四五六）
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この花の一枝の中には数え切れないほどの言葉がこもっているのだよ。いい加減な気持ちと思わないでほしい。
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この歌は藤原朝臣広嗣（ふぢはらのあそみひろつぐ）が、娘子に桜の一枝とともに添えて贈った一首です。
藤原広嗣は、藤原四兄弟の三男の藤原宇合（ふぢはらのうまかひ）の子。
娘子はとくに名も記されていないことからあまり身分の高い家柄の子ではなかったのでしょう。

そんな藤原広嗣の詠んだ一首ですが「この花の一枝の中には数え切れないほどの言葉がこもっているのだよ。いい加減な気持ちと思わないでほしい。」と、桜の一枝の込めた自らの想いの深さを訴えた一首となっています。
まあ、歴史を知っている後世の現代人の目から見ると桜を折る行為などに広嗣の性格の粗暴な感じが出ているとも解釈できますが、ここは純粋に娘子を楽しませたいという恋心として好意的に捉えてあげるべきかと僕は思います。
その上で隠してある思い（百種の言）をあえて言葉にして詠ってしまう広嗣の素朴さがなかなかに微笑ましい一首と言えるのではないでしょうか。

ちなみに広嗣はこの後、父である藤原宇合たち藤原四兄弟が天然痘で亡くなった後に、左大臣の橘諸兄（たちばなのもろえ）を批判したことが原因で太宰府に左遷されます。
その地で、朝廷のまつりごとを左大臣の橘諸兄や玄�ﾑ、吉備真備たちが独占して藤原家が冷遇されていることに不満を抱いて謀反を起こします。

この謀反自体はすぐに鎮圧されて藤原広嗣も処刑されてしまうのですが、この広嗣の謀反をきっかけとして聖武天皇（しやうむてんわう）は大きく動揺し、京を平城京から恭仁京、そして紫香楽宮や難波宮へと移るなど、五年で五回も京を移すという放浪の旅が始まります。
そんな聖武天皇の京探しの放浪の旅に大きな影響を与えた広嗣ですが、この歌からはまだそんな自身の不幸な未来を知ることもない純粋な恋心が感じられて素敵な恋歌ですよね。

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万葉集巻八

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