万葉集入門
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現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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厚見王(あつみのおほきみ)の久米女郎(くめのいらつめ)に贈れる歌一首

屋戸(やど)にある桜の花は今もかも松風疾(はや)み地(つち)に散るらむ

巻八(一四五八)
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家にある桜の花は今ごろは松の風が激しくて地に散ってしまっただろうかなあ
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この歌は厚見王歌(あつみのおほきみ)が久米女郎(くめのいらつめ)に贈った一首です。
厚見王(あつみのおほきみ)は、舎人親王(とねりのおほきみ)の子で天武天皇(てんむてんわう)の孫。
久米女郎(くめのいらつめ)については詳しいことはわかっていませんが、一説には久米若女(くめのわかめ)と同一人物かともいわれています。
(久米若女は藤原宇合の妻だった女性で、石川乙麿と和姦したとの罪〔一説には政治的な陰謀とも〕で下総に配流された人物。)

そんな厚見王が久米女郎に贈った恋歌ですが「家にある桜の花は今ごろは松の風が激しくて地に散ってしまっただろうかなあ」と、桜の花に久米女郎を譬えて詠った一首となっています。
「屋戸(やど)」はこの場合は久米女郎の家のことで、厚見王の家のように馴れ馴れしい表現で詠っている訳ですね。
「松風」は松に当たる風のことですが、ここは「待つ」を掛けて「男の訪れを待ちかねて」の意味もあるのでしょう。

つまりは「あなたという桜の花はわたしの訪れるのを待ちかねてもう地に散ってしまっただろうかなあ」と、しばらく訪れない間に久米女郎の厚見王への恋心がもう失せてしまっただろうかと尋ねた訳です。
まあ、他の女に心移りしたのかあるいは単に恋が冷めただけだったのか、おそらくは最初に心変わりしたのは厚見王のほうで、それがしばらくしてまた再び久米女郎への恋心が再燃してひさしぶりにこの恋歌を贈ったのでしょうね。
そんな身勝手な男に対して久米女郎の次の歌(巻八:一四五九)が続きます。


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万葉集巻八


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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