万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそのをとめ)の雁(かり)の歌一首
誰(たれ)聞きつ此間(こ)ゆ鳴き渡る雁(かり)がねの嬬(つま)呼ぶ声の羨(とも)しくもあるか
巻八(一五六二)
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誰が聞いたでしょうか、ここから鳴き渡って行く雁が妻を呼ぶ声を羨ましく思われることです
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この歌は巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそのをとめ)が雁(かり)を詠んだ一首です。
「雁」はハクチョウよりも小さく鴨よりも大きいマガンなどの水鳥の総称。
巫部麻蘇娘子については詳しいことはわかりませんが、中臣系の氏族の娘のようですね。
そんな巫部麻蘇娘子が詠んだ一首ですが「誰が聞いたでしょうか、ここから鳴き渡って行く雁が妻を呼ぶ声を羨ましく思われることです」と、妻を求めて鳴きながら飛んで行く雁を詠った内容となっています。
「誰が聞いたでしょうか」とは、巫部麻蘇娘子が意中の男性に対して「あなたは聞いたでしょうか」と問いかけている訳ですね。
そして「あの雁は妻を求めて求婚の鳴き声を上げるのに、あなたは私に対してちっとも声を掛けてくれませんね」と、自分を口説いてくれない男を責めている訳です。
ちなみに次の巻八(一五六三)では大伴家持(おほとものやかもち)がこの歌に和えた返歌を贈っていることから、巫部麻蘇娘子の意中の相手はどうやら家持だったようですね。
もちろん実際の恋歌の可能性もありますが、あるいはこれは離れた場所にいる大伴家持に対して戯れに恋歌の形で近況を訪ねた挨拶歌であったのかもと想像されます。
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万葉集巻八
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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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