万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

スポンサード リンク


志貴皇子(しきのみこ)の御歌一首

むささびは木末(こぬれ)求むとあしひきの山の猟夫(さつを)にあひにけるかも

巻三(二六七)
-----------------------------------------------
むささびは木の枝へ飛び移ろうとして、山の猟師にみつかってしまったのだな
-----------------------------------------------

志貴皇子(しきのみこ)は天智天皇の第七子で、母は貴族の出身ではなく地方豪族の娘であったことで生まれながらにして天皇になることなどは望めない地位にいたようです。

この一首はその志貴皇子の歌で、木の枝へ飛び移ろうとしたむささびが山の猟師に見つかって撃たれてしまったと詠っています。
滑降出来る才能におぼれて飛び出さなければ、見つかることもなかっただろうにと…

ただ、この歌は単純に目にした情景を詠っているのではどうもなさそうですね。
天智天皇の子である志貴皇子は、壬申の乱で近江朝廷が敗れてのちの天武・持統天皇の治世下で、敗北者側の皇子として肩身の狭い立場にいたようです。
先に述べたように、母が貴族ではなく地方豪族の娘であったことも彼の立場をさらに肩身の狭いものにしていたのでしょう。
そんななかで彼が取った生き残るための手段は、皇族としての高い地位を求めずとにかく目立たないようにひっそりと生きることでした。

実際に彼はこの目立たない生き方を貫き、他の皇子や貴族たちが権力争いなどで謀殺される中を生き残ります。
志貴皇子は、梢に飛び移ろうとして猟師に撃たれたむささびとに、才覚を奮い、高い地位を求めたがために謀殺されていったそんな他の皇子や貴族たちの姿を見たのかも知れませんね。


志貴皇子の系譜

壬申の乱後、天智天皇の子である志貴皇子が殺害されなかったのは、彼がまだ幼かったからでしょう。
そんな自身の危うい立場をよく理解し、高い地位を望まず、目立たずに一生を終えた志貴皇子。
しかし、彼のこの一見地味な生き方は、死後に大きな意味を持つこととなります。

後年、称徳天皇が明確な後継者を指名しなかったため、その死後、志貴皇子の子である白壁王が即位して光仁天皇となり天智天皇の血筋がふたたび天皇を引き継ぐこととなったのです。
以後、現代の今生(平成)天皇に至るまで代々、天智系の血を引いた天皇が続いています。
志貴皇子が目立たない人生を送り、天智系の血筋を後の世に引き継いだおかげと言えるでしょう。



奈良市の高円山の西麓にあるこの歌の歌碑。



奈良県ヘリポートの敷地内へ向かう道のすぐ東横に平行して走っているこのような車一台がようやく通れる狭い道の先にこの歌碑はあります。
写真奥の建物は奈良県ヘリポート。
(歌碑の前は少し広くなっているので車でも前までいけます。)



この歌碑の形はむささびの飛び立つ姿をイメージしたものだそうです。



奈良県ヘリポートを東へ下ったすぐ側にある春日宮天皇陵(田原西稜:志貴皇子のお墓)。
子である光仁天皇が即位したことで、志貴皇子は死後に春日宮天皇の称号を贈られます。
即位した天皇ではないので歴代の天皇には数えられませんが、死後にでも天皇の呼び名を与えられたことは、彼の人生のせめてものなぐさめと言えるでしょうか。

高い地位をめざさなかった彼の生き様に、どこか穏やかで心惹かれるものを感じるのは僕だけではないでしょう。
その御陵もまた、どこか志貴皇子の人柄のように静かで穏やかさの感じられるもののように思えます。



春日宮天皇陵の東に2キロほどの場所には、その子である光仁天皇の御陵(田原東稜)もあります。


スポンサード リンク


関連記事
万葉集巻三の他の歌はこちらから。
万葉集巻三


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

万葉集入門(トップページ)へ戻る

当サイトはリンクフリーです、どうぞご自由に。
Copyright(c) 2011 Yoshihiro Kuromichi (plabotnoitanji@yahoo.co.jp)


スポンサード リンク


欲しいと思ったらすぐ買える!楽天市場は24時間営業中

Amazon.co.jp - 通販