万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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或る本の、藤原京(みやこ)より寧楽宮に遷れる時の歌

天皇(おほきみ)の 御命(みこと)かしこみ 柔(にき)びにし 家をおき 隠国(こもりく)の 泊瀬(はつせ)の川に 舟浮(う)けて わが行く河の 川隈(かわくま)の 八十(やそ)隈おちず 万度(よろづたび) かへり見しつつ 玉桙(たまほこ)の 道行き暮らし あをによし 奈良の京(みやこ)の 佐保(さほ)川に い行き至りて わが宿(ね)たる 衣(ころも)の上ゆ 朝月夜(あさづくよ) さやかに見れば 栲(たへ)の穂に 夜(よる)の霜降り 磐床(いはとこ)と 川の氷凝(ひこご)り 寒き夜(よ)を いこふことなく 通ひつつ 作れる家に 千代にまで 来(き)ませ大君よ われも通はむ

巻一(七九)
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天皇のご命令をかしこんで、慣れ親しんだ家を後に置き、隠国の泊瀬の川に舟を浮かべて行く川の曲がり角ごとに、幾つもの曲がり角ごとに、いくたびも故郷を振り返り見つつ玉鉾の道を行き、青丹美しい奈良の京の佐保川に辿り着いた。そこで野宿する私の衣の上に朝の月の光のはっきりと見えれば、真っ白な夜の霜が降り、磐床のように川は凍っている。そんな寒い夜にも休むことなく通いつつ作った家に千年の後まで大君よお住み下さい。私もご奉仕に通いますから。
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この長歌も藤原の宮から奈良の平城京に遷都する時に詠まれた一首。
作者は不明で、天皇の命を受けて奈良の宮殿を作る人夫を主体に置いて詠まれていますが実際の作者は宮廷歌人のうちの誰かでしょうか。
藤原京から平城京への遷都は文武天皇のころにはすでに計画が立ち上がっていたようですが、これは藤原京の上下水道の不備などによる衛生状況の悪化や、新興貴族の藤原不比等が京を遠い地に移して旧来の豪族の勢力を削ぎたかったからなどの理由が推測されています。

この歌では「天皇のためにと心を込めて作った奈良の宮殿に千年の後もずっとお住み下さい。私もご奉仕に伺いますから…」との忠誠の言葉とともに、奈良の京と天皇の世が千年も続くようにとの願いのこもった呪術歌となっていますね。
また、泊瀬(初瀬)の川に舟を浮かべて川を行き奈良の佐保川に辿り着いたとの内容は、平城京造営時の遷都の様子を伝える貴重な記述でもあります。
こうして、慣れ親しんだ飛鳥・藤原京を後にして、遠く奈良の京へと天皇や貴族たちは移り住むこととなりました。


奈良の平城宮跡。



平城京大極殿。
平城宮跡に復元されました。


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万葉集巻一の他の歌はこちらから。
万葉集巻一


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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