万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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長皇子(ながのみこ)の猟路(かりぢ)の池に遊(いでま)しし時に、柿本朝臣人麿の作れる歌一首并せて短歌

やすみしし わご大王(おほきみ) 高光(たかひか)る わが日の皇子(みこ)の 馬並(な)めて み猟(かり)立たせる 弱薦(わかこも)を 猟路(かりぢ)の小野(をの)に 猪鹿(しし)こそば い匍(は)ひ拝(をろが)め 鶉(うづら)こそ い匍(は)ひ拝(をろが)ほれ 猪鹿(しし)じもの い匍(は)ひ拝(をろが)み 鶉なす い匍ひ廻(もと)ほり 恐(かしこ)みと 仕(つか)へ奉(まつ)りて ひさかたの 天見るごとく 真澄鏡(まそかがみ) 仰(あふ)ぎて見れど 春草(はるくさ)の いや愛(め)づらしき わご大王(おほきみ)かも

巻三(二三九)
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くまなく国土を統治なさるわが大王、その皇子である高く輝くわが日の皇子が馬を並べて猟りに立たれると、若い薦を刈る猟路の野に猪や鹿は腹這いになって拝み、鶉も腹這いになって恐れ多いと仕え奉る。
そんな猪や鹿が腹這いになって拝み、鶉も腹這いになって恐れ多いと仕え奉るように、遥か高き天をみるごとく清い鏡のように仰ぎ見れども、春草のように愛おしきわが大王よ。
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この歌は、長皇子(ながのみこ)が猟に出たときに柿本人麿が(かきのもとのひとまろ)が詠んだ長歌です。
長皇子は天武天皇の皇子の一人で、弓削皇子(ゆげのみこ)の兄。
この猟場は詳しいことは分かっていませんが、桜井市の鹿路(ろくろ)あたりの野か、もしくは榛原にある榛原西小学校周辺の野かと思われます。

まあ、読んですぐに分かるかと思いますが、もちろんこの一首も実際の猟りの情景をそのまま詠んだ歌ではなく、猟場での長皇子の勇ましさを讃えることで朝廷の繁栄を祈り奉仕を誓う人麿らしい壮大な一首になっています。
冒頭の「大王(おほきみ)」はこの場合は長皇子のことではなく亡くなった天武天皇のことですが、つまりは猪や鹿や鶉などは長皇子のお姿とともに天武天皇と朝廷の威光にひれ伏しているわけですね。

それにしても、腹這いになって拝む猪や鹿や鶉など、本来ならありえない情景も人麿の言葉に掛かればまるでほんとうにこんな出来事が目の前で起こっているようなそんな荘厳さがありますよね^^
また、「ひさかたの 天見るごとく 真澄鏡(まそかがみ) 仰(あふ)ぎて見れど」との表現の壮大さにも圧倒されるものがあります。
みなさんもこの歌を読んで実際に猪や鹿や鶉などが腹這いになって天を仰ぎ見るように拝む姿が目に浮かんできたのではないでしょうか。
このような宮廷歌人としての呪術的な言葉を自在に操り、また個人としての歌では人間らしい側面も覗かせる幅広い才能こそ、後の世に「歌の神」とまで呼ばれることになる人麿の人麿たる由縁ではないかと思います。

この後、柿本人麿以降にも山部赤人などの有名な宮廷歌人は何人か出ますが、同じ万葉集の中でも時代を経るごとにこの手の呪術性をもった荘厳さ壮大さは徐々に薄れてゆくことになります。



桜井市鹿路(ろくろ)の新鹿路トンネル入り口付近。
桜井市の談山神社の屋形橋の前の道を吉野方面に抜けてすぐの場所にあります。
新鹿路トンネルに入らずに手前の道を右に行くと鹿路の集落です。



鹿路の山林。
いまはもう植林ばかりですがそれでも人の姿のない山の緑の中にいると、長皇子や人麿たちの時代を彷彿とさせてくれます。



鹿路には今はこの歌の序書にあるようなそれらしい池は跡形もありませんが、いたるところに川の水が流れておりかつての池の存在が十分に想像できます。


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万葉集巻三


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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