万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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梓弓 手に取り持ちて 丈夫(ますらお)の 得物矢手(さつやた)ばさみ 立ち向(むか)ふ 高円(たかまと)山に 春野焼(や)く 野火(のび)と見るまで もゆる火を いかにと問えば 玉鉾(たまほこ)の 道来(く)る人の 泣く涙 小雨※1(こさめ)に降(ふ)り 白妙の 衣(ころも)ひづちて 立ち留(どま)り われに語らく 何しかも ふとな問※2(と)ふ 聞けば 哭(ね)のみし泣かゆ 語れば 心そ痛き 天皇(すめろき)の 神の御子(みこ)の いでましの 手火(たび)の光そ ここだ照りたる
※1:原文では「雨」の下に「泳ぐ」と「雨」の下に「沐」
※2:原文では「口」+「言」
巻二(二三〇)
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梓の弓を手に持って、勇ましい男が獲物を取る矢を手挟み 立ち向かう高円山に、春の野を焼く野火かと見えるほどに燃える火を、なにごとかと問えば、道を来る人は涙を小雨のように流し、白い布の衣を涙に濡らして立ちどまり、僕に向かって語った。
なぜそんなことを問うてくれるのだ、聞かれたらまた涙が流れて泣いてしまう。
語れば心が痛むよ。
あれは天皇の皇子が天上の国に行かれる葬送の手火の火が光って照っているのだ。
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この長歌は志貴皇子(しきのみこ)が亡くなったときに詠まれた挽歌で、二首(類似の二首を合わせて四首)の反歌とともに巻二の最後を飾る歌となっています。
歌の後の注釈によると笠朝臣金村(かさのあそみかなむら)の歌集に収録されていたとのことなので、作者は笠金村自身と考えてよいでしょう。
志貴皇子は天智天皇の第七皇子でしたが、壬申の乱で天武天皇(大海人皇子)が天智天皇の近江朝廷を滅ぼしたときにはまだ幼かったために命を奪われずに救われました。
(志貴皇子については巻三(二六七)なども参考にしてみてください。)
この歌はそんな志貴皇子の葬送の様子を、涙する人々の悲しみを詠うことで皇子の魂を慰めようとした非常に哀愁のこもった長歌となっています。
これまでに紹介した他の天皇や皇子の死を悼む宮廷歌人の詠んだ壮大な長歌と比べて、純粋にその死を悲しむ内容になっているように感じるのは志貴皇子が権力争いからは遠い所にいたその生き方ゆえでしょうか。
この歌もそれほど長い長歌ではないですので、ぜひ鑑賞するときには声に出して(出来れば実際に奈良の地に立って高円山を眺めながら)朗詠してみてほしいと思います。
そうすることで千年の時を越えて当時の人々の悲しみや想いが現代によみがえってくることでしょう。
奈良市東郊外にある高円山。
お盆に(写真の木の刈り取られている場所で)大文字の送り火が行われることでも有名です。
高円山の裏、奈良市の田原地区にある春日宮天皇陵(田原西陵)。
志貴皇子のお墓です。
子である光仁天皇が即位したことで志貴皇子は死後に春日宮天皇の称号を贈られました(実際の天皇ではないので歴代天皇には数えられていませんが…)
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万葉集巻二の他の歌はこちらから。
万葉集巻二
万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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