万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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河の辺(へ)のつらつら椿つらつらに見れども飽かず巨勢の春野は

巻一(五十六)
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川のほとりのつらつら椿をつらつらといくら見ても飽きないものだなあ、巨勢の春の野は。
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この歌は春日蔵首老(かすがのくらのおびとおゆ)の作と言われており、巻一(五十四)の坂門人足(さかとのひとたり)の歌とほぼ同じ内容ですが、こちらの巻一(五十六)の歌のほうが先に詠まれていたものなので坂門人足がこの歌をもとにして「巨勢山のつらつら椿…」の歌を詠んだものと思われます。
ここで詠われている河は巨勢の地を流れる「蘇我川」のこと。
この時代の旅の和歌の多くは単なる文学作品としてではなくその土地土地の地霊や道の神々のご加護を得て旅の無事を願う祈りの歌でしたので、この歌もおそらくは春日蔵首老が詠んだものをその後の巨勢の土地を旅する者たちが口ずさみ伝承してきた土地誉めの呪術歌だったのでしょうね。

巻一(五十四)で紹介した坂門人足の「巨勢山のつらつら椿…」の歌は、そんな人々の伝承歌として知られるこの「河の辺のつらつら椿…」の歌をもとにして、自身の肌で感じた巨勢の春野を詠うことでより強力な呪術性を期待したものと思われます。
以下に、この二首を比較してみましょう。

巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ思はな巨勢の春野を  (五十四)坂門人足
河の辺のつらつら椿つらつらに見れども飽かず巨勢の春野は (五十六)春日蔵首老

一見しただけではほぼ同じような語句の同じような歌にしか見えませんが、何度か口ずさめば巻一(五十四)の坂門人足の「巨勢山のつらつら椿…」のほうが「調べ(リズム)が洗練され、また同じ「巨勢山」の繰り返しがより強い呪術的な効力を持って迫ってくるのがみなさんにもお分かりかと思います。
文学的な短歌の技術論でいえば短い三十一文字の中に同じ言葉を二度も繰り返すのは語句の無駄遣いでしかないのですが、この二首の場合は「河の辺の」よりも明らかに「巨勢山の」のほうが強い力で読み手の中に迫ってくる力を感じますね。

もとの伝承歌であるこの「河の辺のつらつら椿…」の歌よりも、坂門人足の「巨勢山のつらつら椿…」の歌の掲載順を先にした大伴家持もおそらく同じように感じていたのでしょう。


巨勢を流れる蘇我川。



奈良県御所市大字古瀬にある巨勢寺跡。
この「河の辺のつらつら椿…」の歌もおそらくは春日蔵首老が詠んだものを、その後この土地を旅する者たちが口ずさみ伝承してきた土地誉めの呪術歌なのでしょう。



巨勢寺跡の解説には巻一(五十四)の歌とともにこの巻一(五十六)の歌も記載されています。



巨勢山のつらつら椿。
「つらつら」とは「つくづく」という意味で、「つば木」はもともとは「つら木」であったのだとも。


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万葉集巻一の他の歌はこちらから。
万葉集巻一


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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