万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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中皇命(なかつすめらみこと)の、紀の温泉(ゆ)に往(いでま)しし時の御歌(みうた)

君が代もわが代も知るや磐代(いはしろ)の岡の草根(くさね)をいざ結びてな

巻一(一〇)
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君の命も私の命も支配している磐代の岡のこの草を結びましょう。
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この歌は中皇命(なかつすめらみこと)が紀の温泉に出かけられた際に、磐代の草を結んで旅の無事を祈ったときの一首。
先の額田王の(巻一:九)の歌と並んでいることから見ると同じ天皇の行幸のときのものでしょうか。
中皇命については詳しいことは何も分かっていませんが、孝徳天皇の皇后の間人皇后(はしひとくわうごう)のこととする説もあるようです。
だとすると舒明天皇と皇極天皇の皇女ということになり、中大兄皇子の妹で大海人皇子の姉ということになりますね。

磐代のこの地についてはこのすぐ後に有間皇子(有馬皇子)が松の枝を結んで旅の無事を祈った(巻二:一四一参照)ことで有名ですが、この歌の詠まれた場所もどうやら同じ場所のようです。
おそらくは古来から磐代のこの地で旅ゆく者たちがその無事を祈る風習があったのでしょう。

「草を結ぶ」というのは今の時代の感覚ではよくわからないかも知れませんが、結ぶという行為の中に人間の命を結びとめるという古代信仰があったようです。
ですので、結部という行為に人間の年齢を支配する効力があり、草そのものに特別な意味があるわけではないのですね。
その証拠にここでは草を結んでいますが、有間皇子(有馬皇子)は松の枝を結んでいます(巻二:一四一参照)。
そして、草を結ぶと同時に言霊としてその効力を高めるこの歌を詠み旅の無事を祈ったのでしょう。

このように、万葉集の歌(とくに時代の古い初期のもの)は個人の文学作品である現代短歌とは違い、歌の言霊の力によって自身の願いや祈りを実現しようとする呪術歌としての性質を強く持っていました。


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万葉集巻一


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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