万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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紀の温泉(ゆ)に幸(いでま)しし時に、額田王の作れる歌
莫囂圓隣之大兄爪湯気わが背子がい立せりけむ厳橿(いつかし)が本(もと)
巻一(九)
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莫囂圓隣之大兄爪湯気わたしの愛しい人が立っていただろう神聖な橿の木の下
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この歌は天皇が紀の温泉(現在の和歌山県の湯崎温泉)に行幸された時に同行した額田王(ぬかたのおほきみ)が詠んだ一首。
万葉集の原文は漢字を当て字にした万葉仮名で表記されていて、この歌の上の句「莫囂圓隣之大兄爪湯気」についてははっきりとした訓読みが確定していません。
一応、「夕月の仰ぎて問ひし」(仙覚抄)や「三諸の山見つつゆけ」(古義)、「紀の国の山越えてゆけ」(考)など三十種類以上の読みがあるようなので、参考にはなるかと思いますが…
この天皇の行幸は何時のことか明確ではありませんが、額田王が同行していることを考えると(巻一:七参照)の歌の左記にある斉明天皇の時代の紀の温泉への行幸のことかと思われ、その場合は有間皇子が謀反を企んだとして捕えられ天皇の行幸先の紀の湯に尋問を受けるために移送され絞殺された時と同時期になりますね(巻二:一四一参照)。
上の句の読みが確定していないので歌の意味についても解釈し辛いところがありますが、「愛おしい人(おそらく中大兄皇子)が神聖な橿の木の下に立っていた」ということは、その橿の木の霊力を受けて旅の無事を祈った歌なのでしょう。
万葉集にはこのように土地や樹木に宿った精霊の力を授かって長寿や旅の無事を祈る呪術歌が多く含まれています。
奈良県桜井市初瀬の長谷寺参道途中民家前にあるこの歌の歌碑。
歌碑の解説。
歌碑は近鉄長谷寺駅から国道165号線を渡って長谷寺へ向かう参道の途中の、このような民家前に建っています。
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万葉集巻一
万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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