万葉集入門  ()
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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誉謝女王(よさのおほきみ)の作れる歌

ながらふる妻吹く風の寒き夜(よ)にわが背の君は独りか寝(ぬ)らむ

巻一(五九)
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長く着た衣の端に吹く風の寒き夜にわが夫は独りで眠っているのだろうか。
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この歌は誉謝女王(よさのおほきみ)が旅先の夫を案じて詠んだ一首。
次の巻一(六〇)の歌などと共に、おそらくは持統天皇の伊勢行幸時のものかと思われます。
歌の中の「妻」はこの場合は「衣の端」のことで、誉謝女王自身ではありません。

この歌も夫を旅に出した妻がその無事を祈って詠む典型的な祈りの歌で、道の神々や悪しき魔物たちの活動が活発になる夜に旅先の夫の身を案じた言霊の歌といえるでしょう。
この時代の旅の宿は、行く先々で雨露をしのぐだけの簡素な造りの宿を作って休むだけのものでした。
それゆえに旅人たちは目の前の夜の闇の中に魂が吸い込まれて消えてゆくような不安を常に感じて不安な夜を過ごしました。

そんな魔の潜む夜の闇に心を奪われてしまわないように、旅先の夫は家に残してきた妻に心を集中して歌を詠み、家に残った妻もまたこの歌のように旅先の夫の心を現世に留めておく祈りの歌を言霊として託して詠んだのです。


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万葉集巻一の他の歌はこちらから。
万葉集巻一


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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