万葉集入門  ()
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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長皇子の御歌

暮(よひ)に逢ひて朝面無(あしたおもな)み隠(なばり)にか日長(けなが)き妹が廬(いほり)せりけり

巻一(六〇)
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宵に逢って一夜を過ごし朝恥ずかしげに顔を隠す隠の地に、長い日々、妻は仮の庵を建てて過ごしていたのだろう。
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この歌は長皇子(ながのみこ)の詠んだ一首。
長皇子は天武天皇の皇子で弓削皇子と同母兄弟の兄。
「隠(なばり)」は現在の三重県名張市のことです。

おそらくは先の巻一(五九)の時と同じ持統天皇の伊勢行幸時のもので、こちらは巻一(五九)とは逆に藤原京に残った長皇子が持統天皇の行幸に従駕した妻を案じた歌となっています。
この時代、妻が夫を残して旅に出るというのはあまりないことですが、女性である持統天皇の従駕にはやはり多くの采女が必要だったのでしょうね。
長皇子の妻もそんな一人だったのだろうと想像できます。
(まあ、長皇子に対する人質的な意味合いも多少はあったのかも知れませんが^^;)

そんな旅先の妻の身を案じて「隠の地に、長い日々、妻は仮の庵を建てて過ごしていたのだろう。」と、もうすぐ帰郷するであろう妻の無事の帰りを祈っているわけですね。
ちなみに「暮(よひ)に逢ひて朝面無み(宵に逢って一夜を過ごし朝恥ずかしげに顔を隠す)」までが「隠(なばり)の地」を修飾する序詞になっているわけですが、妻を思う夫の歌としてなんとも艶っぽくて素敵な表現ですよね。
長皇子の同母弟の弓削皇子も万葉集に多くの歌を残していますが、この兄弟はなかなかに歌の上手だったようです。

こうやって読むと、万葉集というのは歌の記録であると同時に、当時を生きた人々の生の声と想いの記録でもあるとあらためて気づかされます。
妻が夫を案じ、夫が妻を案じるその想いが、千数百年経った現代でも色あせずに残っていることもまた言霊としての歌の力なのでしょう。


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万葉集巻一の他の歌はこちらから。
万葉集巻一


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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