万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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反歌

山越しの風を時じみ寝(ぬ)る夜(よ)おちず家なる妹(いも)を懸(か)けて偲(しの)ひつ

右は、日本書紀を検(かむが)ふるに、讃岐国に幸(いでま)すこと無し。また軍王もいまだ詳(つばひ)らかならず。ただ、山上憶良大夫(やまのうへのおくらのめへつきみ)の類聚歌林(るいじうかりん)に曰く「記に曰く『天皇十一年己亥(きがい)の冬十二月己巳(きし)の朔(つきたち)の壬午(じんご)、伊予の温湯(ゆ)の宮に幸(いでま)す云々』といへり。一書(あるふみ)に云はく『この時に宮の前に二つの樹木あり。この二つの樹に斑鳩(いかるが)・比米(ひめ)二つの鳥さはに集まれり。時に勅(みことのり)して多く稲穂を掛けてこれを養(か)ひたまふ。すなはち作れる歌云々』といへり」といへり。けだしここより便(すなは)ち幸ししか。

巻一(六)
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山越の風は絶え間なく吹き、夜は常に家にいる妻を思って偲びます。
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この歌は、先の巻一(五)の長歌に付けられた反歌で、舒明天皇(じょめいてんわう)が讃岐国安益郡(現在の香川県綾歌群)に行幸された時に、従駕した軍王(いくさのおほきみ)が詠んだ一首です。
後に付けられている左注については先の長歌の時に述べましたが、「一書(あるふみ)に云はく」以降はこの歌とは直接関係はありません。

反歌には長歌の内容を凝縮して唱えやすくした呪文のような性質をもつものが多いのですが、この歌もまた長歌の内容をそのまま縮小したように妻を思うことで旅先の夜の不安な心を鎮めようとした鎮魂の一首になっていますね。
いまでも山の中で一夜を過ごすのは不安なことですが、当時の軍王たちの時代には道々の精霊や土地の神々の存在がもっと身近なものであり、それらは自身を護ってくれもすれば逆に悪霊として災いをもたらすこともあると信じられていました。
そんな人間の力の及ばない大きな力に対して、歌を通して家にいる妻と心と心を結びつけておくことで心(魂)を現世に留めておこうとする願いがみなさんにもこの歌から感じていただけるかと思います。


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万葉集巻一


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万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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