万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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明日香川原宮御宇天皇代(あすかのかははらのみやにあめのしたしらしめししすめらみことのみよ)〔天豊財重日足姫天皇(あめとよたからいかしひたらしひめのすめらみこと)〕

額田王(ぬかたのおほきみ)の歌 いまだ詳(つばひ)らかならず

秋の野のみ草刈葺(ふ)き宿(やど)れりし宇治の京(みやこ)の仮廬(かりほ)し思ほゆ

右は、山上憶良大夫の類聚歌林を検(かむが)ふるに曰はく「一書(あるふみ)に戊申(ぼしん)の年比良(ひら)の宮に幸すときの大御歌」といへり。ただ、紀に曰はく「五年の春、正月己卯(きばう)の朔(つきたち)の辛巳(しんし)、天皇、紀の温湯(ゆ)より至(かへ)ります。三月戊寅(ぼいん)の朔、天皇吉野の宮に幸して肆宴(とよのあかり)す。庚辰(かうしん)の日、天皇近江の平(ひら)の浦に幸す」といへり。

巻一(七)
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秋の野のススキを刈って屋根に葺いき泊まった、あの宇治の仮の宿が懐かしく思い出されます。
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この歌は額田王(ぬかたのおほきみ)がかつて旅先で過ごした宇治(京都府宇治市)の仮の宿を懐かしんで詠んだ一首です。
題詞に「いまだ詳(つばひ)らかならず」とあるのは実際に額田王の作かどうか不明で、歌の後の左注の後半部分を取るならによれば斉明天皇が詠んだ御歌ということになります。
まあ、実際のところは斉明天皇を形式作者、額田王を実作者とする代作の歌なのでしょう。

額田王(ぬかたのおほきみ)は万葉集初期を代表する女流歌人で、初め大海人皇子(天武天皇)の妻でしたが、後に天智天皇の妻になるなど非常に重要な人物ですが、まあ、詳しいことはまた巻一(十六)以降の歌などを通して紹介していきたいと思います。

左注によるとこの歌がいつ詠まれたものなのか解釈が分かれているようですが、「戊申(ぼしん)の年比良(ひら)の宮に幸す」や「庚辰(かうしん)の日、天皇近江の平(ひら)の浦に幸す」などから天皇が比良(現在の滋賀県)への行幸の途中で宇治の近くをお通りになり、かつて宇治でススキを刈って屋根に葺き仮の宿を作って泊まった日のことを思い出し詠まれたものかと思われます。
ただ、おそらくは代作とはいえ天皇の御歌として詠まれていることからも単純な回顧の歌ではなく、宇治の土地を讃める土地讃めの歌として詠まれた呪術歌なのではないでしょうか。

「宇治の京」とあるのは、宇治にかつて菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)が居て行宮もあったことからだろうと思われますが、そんな今は荒んでしまった旧京の地霊を「秋の野のススキを刈って屋根に葺いき泊まった、あの宇治の仮の宿が懐かしく思い出されます。」と讃めて慰め、宇治の土地の地霊にこれから先の旅の無事をも祈ったのでしょう。


京都府宇治市の下居(おりい)神社にあるこの歌の歌碑。
下居神社は宇治市役所を少し南に行った場所にあります。



歌碑の解説。



下居神社拝殿。


下居神社の解説板。
この地はかつて斉明(皇極)天皇が行幸の途中に行宮を営んだ跡地と言われています。


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万葉集巻一の他の歌はこちらから。
万葉集巻一


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万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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