万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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或る本の歌一首
三(み)吉野の御船(みふね)の山に立つ雲の常(つね)にあらむとわが思はなくに
右の一首は柿本朝臣人麿の歌集に出づ。
巻三(二四四)
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み吉野の三船山に立つ雲もそうだが私もまた常に絶えずにこの世にいられるとは思えないなあ。
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この歌は持統天皇の吉野行幸時に従駕した弓削皇子(ゆげのみこ)が三船山に立つ雲を見て詠んだ一首で、一読してわかるように巻三(二四二)の歌の異伝となっています。
左注によると柿本朝臣人麿の歌集に収録されていたものだそうですが、柿本人麿歌集には伝誦の人麿歌の他、無名歌群や他の人の歌が多く含まれているのでこの歌もおそらくは弓削皇子の歌が人々の間に伝誦される過程で語句が変化して伝えられたものなのでしょう。
巻三(二四二)の歌では「滝の上の」と個人の狭い視点となっていた初句が、こちらでは「三吉野の」と漠然とした広い土地を示す言葉に変わっているのは広く多くの人々の間で伝えられてきた間の変化だからでしょうか。
歌の「調べ(リズム)」としてはこちらのほうが滑らかで口に乗りやすいものですが、逆に 巻三(二四二)の歌に比べて内容としての切迫さが薄れてしまっているも伝誦歌ゆえの特徴のようにも思えます。
このようにわずかな語句の違いでも、その歌の持つ切迫感や悲愴さがまた違った密度で感じられるというのは非常に興味深いですよね。
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万葉集巻三
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万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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