万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
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(解説:黒路よしひろ)

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膳部王(かしはでべのおほきみ)を悲傷(かなし)める歌一首。

世間(よのなか)は空(むな)しきものとあらむとそこの照る月は満ち闕(か)けしける

右の一首は、作者いまだ詳(つばひ)らかならず。

巻三(四四二)
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世の中は空しいものだと伝えようとして、この照る月も満ち欠けするのだなあ。
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この歌は長屋王の変で亡くなった膳部王(かしはでべのおほきみ)のことを悲しんで詠まれた一首です。

長屋王(ながやのおほきみ)は当時の左大臣で朝廷の政を主導する立場にいましたが、それに対立する藤原四兄弟は長屋王が左道(人を呪い殺す術)を学んで謀反を企てているという噂を流し、それを信じた聖武天皇の許可のもと藤原宇合の軍が長屋王の屋形を包囲して長屋王を自害に追い込みました。
これがいわゆる「長屋王の変」です。

長屋王の変については先の巻三(四四一)の歌も参照。

膳部王は長屋王の長子で、長屋王が謀反の罪に問われた時に共に自害しました。
そんな膳部王の死を悲しんで詠まれた一首ですが、「世の中は空しいものだと伝えようとして、この照る月も満ち欠けするのだなあ」と、膳部王たちが謀反人とされている立場ゆえか遠回しな表現でその死を悼んだ一首となっています。

「長屋王の変」はおそらくは藤原四兄弟の陰謀で無実の罪であったのだろうと推測できますが、聖武天皇が謀反と認めて捕縛を許可した以上、公に謀反人の死を悼むことは出来なかったのでしょうね。

それゆえにこの歌の作者名も伏せられているようです。
長屋王の死を悼んだ先の巻三(四四一)の歌とおなじく倉橋部大女(くらはしべのおほきみ)の作である可能性もありますが、それならば作者名を伏せる必要もないとも思うので、やはり他の膳部王に関係する誰かが詠んだものなのでしょう。

月ですら常に満ち足りているわけではなく欠けてしまうときもあるのだとの感慨は、まさに栄光と没落をその身で経験した長屋王の一族を象徴する悲しい一首ですよね。


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万葉集巻三


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万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
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