万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

スポンサード リンク


反歌

留(とど)め得ぬ命(いのち)にしあれば敷栲(しきたへ)の家ゆは出(い)でて雲隠(くもがく)りにき

右は、新羅(しらぎの)国の尼(あま)、名を理願(りぐあん)といへるが、遠く王徳(わうとく)に感(かま)けて聖朝(みかど)に帰化(まゐき)たり。時に大納言大将軍大伴卿(まへつきみ)の家に寄住して、既(すで)に数紀(すうき)を逕(ふ)。ここに天平七年乙亥(いつがい)を以(も)ちて、忽(たちま)ちに運病(うんびやう)に沈み、既に泉界(せんかい)に趣(おもむ)く。ここに大家石川命婦(おほとじいしかはのみやうぶ)、餌薬(にやく)の事に依(よ)りて有間(ありま)の温泉(ゆ)に往(ゆ)きて、この喪(も)に会(あ)はず。ただ、郎女、独(ひと)り留(とどま)りて屍柩(しきう)を葬(はふ)り送ること既に訖(をは)りぬ。よりてこの歌を作りて温泉に贈り入れたり。

巻三(四六一)
-----------------------------------------------
留め得ることの出来ない命だから住みよい家を出て雲の彼方に隠れてしまったよ
-----------------------------------------------

この歌は尼理願(あまりぐわん)が亡くなったときに大伴坂上郎女(おほとものさかのうへのいらつめ)の詠んだ挽歌で、先の巻三(四六〇)の長歌に付けられた反歌です。
巻三(四六〇)の長歌では「生きる者は死ぬということを免れぬものにあれば…」と詠っていましたが、こちらの反歌でも「留め得ることの出来ない命だから住みよい家を出て雲の彼方に隠れてしまったよ」と、尼理願の死の避けられなかった悲しさを詠っています。

この時、大家石川命婦(おほとじいしかはのみやうぶ)をはじめとする大伴家の多くの者たちは石川命婦の療養に付き添って有馬の地にいたようですが、きっと突然の哀しい知らせに驚き悲しんだことでしょう。
そんな人々の哀しむ姿まで現在に蘇ってくるような想いのこもった挽歌ですよね。

尼理願は大伴家に数十年の間寄住して暮らしていたそうですが、旅人やその子の家持の歌に日本古来の神道的な色があまり見られないのは、あるいは大伴家がこの尼僧から受けた仏教的思想の影響が大きかったからなのかも知れませんね。
そんな旅人や家持の思想にも大きく影響を与えたであろう理願の突然の死は、この世の無常を身をもって彼らに伝えることとなったのでしょう。


スポンサード リンク


関連記事
万葉集巻三の他の歌はこちらから。
万葉集巻三


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

万葉集入門(トップページ)へ戻る

当サイトはリンクフリーです、どうぞご自由に。
Copyright(c) 2015 Yoshihiro Kuromichi (plabotnoitanji@yahoo.co.jp)


スポンサード リンク


欲しいと思ったらすぐ買える!楽天市場は24時間営業中

Amazon.co.jp - 通販