万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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紀女郎(きのいらつめ)の怨恨(うらみ)の歌三首〔鹿人丈夫(かひとのまへつきみ)の女(むすめ)、名を小鹿(をしか)といへり。安貴王(あきのおほきみ)の妻なり〕

世間(よのなか)の女(をみな)にしあらばわが渡る痛背(あなせ)の河を渡りかねめや

巻四(六四三)
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世間一般の女性だったなら私が渡るあな背の川を渡りかねるたりするでしょうか。
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この歌は紀女郎(きのいらつめ)が詠んだ怨恨(うらみ)の歌三首のうちのひとつ。
紀女郎は鹿人丈夫(かひとのまへつきみ)の娘で、安貴王(あきのおほきみ)の妻です。
安貴王は天智天皇(てんぢてんわう)の皇子である志貴皇子(しきのみこ)の孫。

そんな紀女郎が「世間一般の女性だったなら私が渡るあな背の川を渡りかねたりするでしょうか。」と、自身があな背の川を渡りかねている様子を詠っています。
「痛背(あなせ)の河」は現在の奈良県桜井市にある「穴師(あなせ)川」のことで、いわゆる巻向川のこと。
(穴師地区を流れる巻向川を穴師川と呼びます。)
ただ、この歌の場合は「ああ、わが背」の意味もかけてあるかと思われます。

正直なところこの歌については解釈が難しいのですが、題詞に「怨恨(うらみ)の歌」とあることから、恋人などを怨んで詠んだ歌であることが想像できますね。
そのうえで紀女郎が怨んだ男性として真っ先に思いつくのが、やはり夫の安貴王あたりでしょうか。

じつは安貴王は妻である紀女郎の他にもうひとり、因幡出身の采女(うねめ)である八上采女(やかみのうねめ)という女性と恋愛関係にありました。
ただ、采女は天皇以外の者が手を触れてはならない存在だったために、安貴王と八上采女の関係は不敬として罰せられ八上采女は因幡の国に返されてしまいます。
そんな八上采女を偲んで安貴王が詠んだ歌が巻四(五三四)などの歌ですが、紀女郎には不敬罪を犯してまで采女に心を奪われて、いまもまだその采女を恋い慕う夫をどうしても許すことが出来なかったのでしょうね。

「世間一般の女性だったならどうなのでしょう。私のようにあな背の川を渡りかねたりするのでしょうか。」とは、きっと世間の幸せな女性なら夫を責めに行くためにこんなふうに川を渡ろうか渡るまいか悩むことなどないのでしょうね…という紀女郎の切ない想いがこう詠わせたのでしょう。


穴師川(巻向川)。


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万葉集巻四


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万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
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