万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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大伴淡等(たびと)謹みて状(まを)す

梧桐(ごとう)の日本琴(やまとこと)一面 対馬(つしま)の結石(ゆふし)山の孫枝(ひこえ)なり

この琴夢(いめ)に娘子(をとめ)に化(な)りて曰(い)はく「余(われ)根を遙島(えうたう)の祟(たか)き巒(みね)に託(つ)け、韓(から)を九陽(くやう)の休(よ)き光に晞(ほ)す。長く煙霞を帯びて、山川の阿(くま)に逍遙(せうえう)し、遠く風波を望みて、雁木(がんぼく)の間(あひだ)に出入す。唯(ただ)百年の後に、空しく溝壑(こうがく)に朽ちむことを恐るるのみ。偶(たまたま)良匠に遭ひて、散(けづ)られて小琴と為(な)る。質の麁(あら)く音の少(とも)しきを顧みず、恒(つね)に君子(うまひと)の左琴(さきん)を希(ねが)ふ」といへり。即ち歌ひて曰はく

如何(いか)にあらむ日の時にかも声知らむ人の膝(ひざ)の上(へ)わが枕(まくら)かむ

巻五(八一〇)
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いつの日にか私の声色を理解してくれる人の膝の上をわたしは枕にするのでしょうか。
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この歌は大宰府に居る大伴旅人(おほとものたびと)が奈良の都の藤原房前(ふぢはらのふささき)に琴を贈ったときに添えた書簡の文章と二首の歌のうちのひとつ。
書簡の文章は…

大伴旅人、謹んで言上いたします。

梧桐の大和琴一面 対馬の結石山の孫枝で作りし物。

この琴が夢の中に少女の姿になって現れて言いました。「わたしは根を沖遠い島の高き山に生やし、幹を太陽の心地よい光に晒してきました。長く雲や霞をまとい、山川の中に心遊ばせ、遠く風や波を見ては、役に立つとも立たぬともなく生きてきました。ただ、百年の後に枯れて空しく谷間に朽ち果てるのだろうかと不安には思っていましたが、偶然にもよき細工師に逢い、削られて小琴となりました。質の悪くよい音も出ないわが身を顧みもせず、常に立派な方の愛用の琴となりたいと願っています。」と。そして少女は次のように歌を詠いました。

と、こんな感じでしょうか。
続いて少女に化した琴が詠んだ歌として「いつの日にか私の声色を理解してくれる人の膝の上をわたしは枕にするのでしょうか。」と、男の膝枕に戯れる恋歌とも取れる内容となっていますね。
これはもちろん、実際には大伴旅人が戯れに詠んだ歌だろうと思いますが、あるいは夢の中に琴が少女となって現れたというのは事実だったのかもと想像も出来てなかなかに楽しい歌のようにも感じます。

この後、さらに大伴旅人が琴の少女の歌に返した次の巻五(八一一)の返歌が続くのですが、それはまた次回に解説したいと思います。


平城京資料館に展示されている大和琴の復元模型(写真手前)。


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万葉集巻五の他の歌はこちらから。
万葉集巻五


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価637円〜〜1145円(税別)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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