万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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僕詩詠(われうた)に報(こた)へて曰はく

言問(ことと)はぬ樹(き)にはありともうるはしき君が手馴(たな)れの琴にしあるべし

琴の娘子(をとめ)答(こた)へて曰はく
「敬(つつし)みて徳音(とくいん)を奉(うけたま)はりぬ。幸甚(かうじん)幸甚」といへり。片時(しまらく)にして覚(おどろ)き、すなはち夢(いめ)の言(こと)に感じ、慨然として止黙(もだ)をるを得ず。故公使(かれおほやけづかひ)に附けて、聊(いささ)か進御(たてまつ)る。〔謹みて状(まを)す。不具〕

天平元年十月七日 使に附けて進上(たてまつ)る。
謹通 中衛高明閣下(ちうゑいかうめいかふか) 謹空

巻五(八一一)
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言葉を話さない樹ではあってもあなたは優れた方が愛用なさる琴のはずです。
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この歌は巻五(八一〇)と同じく、大伴旅人(おほとものたびと)が奈良の都の藤原房前(ふぢはらのふささき)に琴を献上したときに添えて贈った書簡の文章と二首の歌のうちのひとつ。
内容は巻五(八一〇)から続いており、琴が夢の中で少女と化して「いつの日にか私の声色を理解してくれる人の膝の上をわたしは枕にするのでしょうか。」と詠ったのに対して…

「僕詩詠に報へて曰はく(私は次のように答えて詠いました)」として、旅人が 「言葉を話さない樹ではあってもあなたは優れた方が愛用なさる琴のはずです。」と、この歌で答えています。
それに対してさらに琴の少女は「謹んでお言葉を承け賜わります。うれしいことです。」と言ったそうですが、なんとも旅人らしい夢の面白い話ですよね。

更に手紙には「ほんのわずかの時間で私は目を覚まし、すぐに夢の中の少女の言葉に感動して黙っていることが出来ませんでしたので、公務の使いに託して戯れに献上いたします。〔謹んで申し上げました。不具〕」と書いて締めくくっています。

この「公務の使い」とは奈良の都に公用で行く大伴百代(おほとものももよ)のことで、百代に房前への琴と書簡を託して持たせたわけですね。

それにしても、旅人がこの琴と歌を贈った相手が藤原四兄弟のひとりの藤原房前であるというのはちょっと気になるところです。

大伴旅人は朝廷にあっては皇親派の有力な旧来からの貴族であり、新鋭貴族の藤原家とは対立する立場にありました。
もちろん派閥的に対立する立場にあるとはいえ同じ朝廷の臣なのですから表面上は大人の対応をしていたはずですが、本来ならばわざわざ大宰府からこのような戯れ話と歌を添えてまで琴を贈るような関係だとはちょっと思えないのです。
しかも一説によると旅人の大宰府への赴任は、藤原家にとって邪魔な存在の旅人が左遷されたのだとも言われているのですから…

ただ、旅人が房前に贈ったこの書簡の日時は天平元年十月七日となっており、この年の二月にはすでに長屋王(ながやのおほきみ)の変(巻三:四四一参照)が起こり長屋王もこの世に無く、藤原四兄弟が朝廷の実権を牛耳っている時期でした。
そう考えると大宰府に居る大伴旅人が大伴家の生き残るりのために、藤原家との関係改善のために奔走していたとしても不思議はないですよね。

このあたりについては推測でしかありませんが、この後、旅人の妹の大伴坂上女郎(おほとものさかのうへのいらつめ)が藤原四兄弟のひとりの藤原麿(ふぢはらのまろ)と恋人関係になったのも、あるいは一時、大伴家が藤原家に近づいて行った結果だったのかも知れません。


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万葉集巻五の他の歌はこちらから。
万葉集巻五


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価637円〜〜1145円(税別)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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