万葉集入門
万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

スポンサード リンク


車持朝臣千年(くるまもちのあそみちとせ)の作れる歌一首〔并せて短歌〕

味(うま)ごり あやに羨(とも)しく 鳴る神の 音のみ聞きし み吉野の 真木(まき)立つ山ゆ 見降(おろ)せば 川の瀬ごとに 明(あ)け来れば 朝霧(あさぎり)立ち 夕されば かはず鳴くなへ 紐(ひも)解かぬ 旅にしあれば 吾(わ)のみして 清き川原(かはら)を 見らくし惜しも

巻六(九一三)
-----------------------------------------------
美しい織り目の綾のように、あやしいほどに羨ましく、雷の音のとどろくように聞いていた吉野の立派な木々の間から見下ろすと、川の瀬ごとに朝が明ければ朝霧が立ち、夕べになれば蛙が鳴く。紐も解かずに寝る旅にあるので妻に見せることもなく僕ひとりが清き川原を見るのは惜しいことです。
-----------------------------------------------

この歌は吉野の地を訪れた車持朝臣千年(くるまもちのあそみちとせ)の詠んだ長歌です。
題詞には詳しいことは何も記載されていませんが、どうやら巻六(九〇七)の歌の時と同じく養老七年に元正天皇の吉野行幸に従駕した時のもののようですね。
車持千年は天皇の車駕奉仕を職とした一族の人間だったようで、同じ時期に朝廷に仕えた笠金村などとも近い関係にあったようです。

歌の内容としては、吉野の土地の神の加護を得ようとした土地讃めの呪術歌であると同時に、旅先での心の不安を家に残してきた妻を想うことで鎮めようとした鎮魂の歌でもあるのでしょう。
このように、万葉集の時代の人々は、旅先でその土地の神を祝福する歌を詠むことで旅の加護を得ようとし、また家に残してきた妻や恋人を思って歌を詠むことで旅先での不安や動揺を鎮めようとしました。

万葉集の巻六の冒頭にはこの歌のように吉野やその他の土地を詠った長歌が多く収録されていますが、それらを現代の文学作品のように鑑賞してしまうと同じような類型歌ばかりで何のためにこのような歌を詠んだのか疑問に思われることでしょう。
しかしこれらの歌を神に捧げた祈りの歌や心の不安を鎮めるための鎮魂歌として読み直していただければ、その瞬間から万葉時代の人々が神や家に残してきた妻に対して語り掛けた祈りの言霊として千数百年の時を越えてみなさんの心にもその言葉は活き活きと響いてくることかと思います。


吉野の清き川原。


スポンサード リンク


関連記事
万葉集巻六の他の歌はこちらから。
万葉集巻六


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

万葉集入門(トップページ)へ戻る

当サイトはリンクフリーです、どうぞご自由に。
Copyright(c) 2015 Yoshihiro Kuromichi (plabotnoitanji@yahoo.co.jp)


スポンサード リンク


欲しいと思ったらすぐ買える!楽天市場は24時間営業中

Amazon.co.jp - 通販