万葉集入門
万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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養老(やうらう)七年癸亥(きがい)の夏、吉野の離宮(とつみや)に幸(いでま)しし時に、笠朝新金村(かさのあそみかなむら)の作れる歌一首〔并(あは)せて短歌〕

滝(たぎ)の上(へ)の 御舟(みふね)の山に 瑞枝(みづえ)さし 繁(しじ)に生(お)ひたる 栂(とが)の樹(き)の いやつぎつぎに 万代(よろづよ)に かくし知らさむ み吉野の 蜻蛉(あきづ)の宮は 神柄(かむから)か 貴(たふと)くあらむ 国柄(くにから)か 見が欲(ほ)しからむ 山川を 清(きよ)み清(さや)けみ うべし神代(かみよ)ゆ 定めけらしも

巻六(九〇七)
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滝の上の御舟山に瑞々しく繁った栂の木のように、つぎつぎに万年の後の世にもこのように吉野の蜻蛉の宮は神懸っているからか貴くある。そんな国土ゆえか見たいと願う山川の清きさやかなこの地を、神代から宮と定めてきたのだそうだ。
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この歌は元正天皇が吉野の宮に行幸された時に同行した笠朝新金村(かさのあそみかなむら)の詠んだ長歌で、巻六の冒頭に置かれた一首です。
一読して分かるように、吉野の蜻蛉の地を誉める土地讃めの儀礼歌となっています。
この時代、天皇が行幸されるときはその土地の神々の加護をあずかるためにこのようにして土地を誉める歌がよく詠まれました。
笠金村のこの歌も吉野の蜻蛉の宮の神懸った貴さを詠い、それゆえに神代からここに宮が定められてきたのだと褒めたたえていますね。

蜻蛉(あきづ)の宮は、宮滝の吉野離宮のことですが、宮滝より少し南東に行った場所には「蜻蛉の滝」などがあり、いまもその名が残っています。
あるいはあきつの公園のあたりも貴族たちのかつての遊行地だったのでしょうか。

万葉集の時代もこの頃(柿本人麿たちの時代よりたった三十年ほど後ですが)になると歌の持つ呪術性が徐々に失われて儀礼歌も文字通り形式化しつつあるのですが、それでも土地の神々を信仰する心はまだ完全に消えたわけではなかったのでしょうね。
ためしみに、柿本朝臣人麿がかつて吉野宮で詠んだ持統天皇や吉野宮を讃めたたえる歌、巻一(三十八)」 や 巻一(三十九)と比較して読んでみられると、神々の存在がもっと身近にあった人麿の時代とのその違いがよく分かるかと思います。


「蜻蛉(せいれい)の滝」
宮滝の南東、川上村の五社トンネルを抜けてすぐを右折した「あきつの小野公園」内にあります。



「蜻蛉(せいれい)の滝」解説。
二十一代雄略天皇(巻一:一の歌参照)がこの地に行幸の際、突然アブが飛んできて天皇の肘に喰いついたそうです。
ところがどこからともなく現れた蜻蛉(とんぼ)がそのアブを噛み殺したので天皇が大いにほめたたえ、それ以後この土地を「蜻蛉野(あきつの)」と呼ぶようになったのだとか。


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万葉集巻六


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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