万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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車持朝臣千年(くるまもちのあそみちとせ)の作れる歌一首并せて短歌
鯨魚(いさな)取り 浜辺(はまへ)を清み うちなびき 生(お)ふる玉藻に 朝凪(あさなぎ)に 千重波(ちへなみ)寄せ 夕凪(ゆふなぎ)に 五百重波(いほへなみ)寄す 辺(へ)つ波の いやしくしくに 月にけに 日に日に見とも 今のみに 飽き足(た)らめやも 白波(しらなみ)の い開(さ)き廻(めぐ)れる 住吉(すみのえ)の浜
巻六(九三一)
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鯨魚も取れるという浜辺が清らかなので、うち靡いて生えている美しい藻には、朝の凪に千重の波が寄せて来る。夕べの凪には五百重の波が寄せて来る。その浜辺の波にように、よりいっそうに、月々に、日に日に見るとしても満足できないのに、今だけ見て飽き足りるだろうか。白波が開花してめぐる住吉の浜よ
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この歌は車持朝臣千年(くるまもちのあそみちとせ)が住吉の浜を讃えて詠んだ長歌です。
題詞には詳しいことは書かれていませんが、おそらく笠朝臣金村(かさのあそみかねむら)の詠んだ巻六(九二八)の歌などと同じく神亀二年十月の聖武天皇の難波行幸に従駕したときのものでしょう。
「住吉(すみのえ)」は大阪府住吉区の浜で、万葉の時代、「住吉」は「すみよし」ではなく「すみのえ」と呼びました。
歌の内容は、そんな「鯨魚も取れるという清らかな浜辺の美しい藻に、朝夕の凪ごとに寄せる波のように日に日に見ても見飽きない住吉の浜を、今だけ見て飽き足りたりなどするだろうか」と、いくら見たとて見飽きることのない住吉の浜を讃えて詠んだ一首となっています。
巻六(九二八)の歌などで笠金村が天皇の威光によって輝きを取り戻した難波の宮全体を讃えたのに対して、こちらの車持千年の歌は視点を住吉の浜に向けて誉め讃えた土地讃めの内容となっているわけですね。
このように同じ行幸に同行した宮廷歌人たちの、ひとりが難波宮全体を誉め、ひとりが住吉の浜を誉め、またべつのひとりが他の対象を通して天皇を誉め讃えたりすることで、それそれの歌にまた違った価値が生まれていることは面白いですよね。
そんな宮廷歌人たちが同時期に存在するための工夫のようなものも感じられて、なんとも興味深い一首のようにも思います。
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万葉集巻六
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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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