万葉集入門
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現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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紀女郎(きのいらつめ)の大伴宿禰家持に贈れる歌二首

戯奴(わけ)〔変(へん)してわけと云ふ〕がためわが手もすまに春の野に抜ける茅花(ちばな)そ食(を)して肥(こ)えませ

巻八(一四六〇)
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おまえのために私が手も休めずに春の野で抜き摘んだ茅花ですよ。食べてお太りなさい。
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この歌は紀女郎(きのいらつめ)が大伴宿禰家持(おほとものすくねやかもち)に贈った二首の歌のうちのひとつ。
もう一首のほうの巻八(一四六一)の後に付けられた左注には「右は、合歓(ねぶ)の花と茅花とを折り攀(よ)ぢて贈れるなり。」とあり、どうやら紀郎女が大伴家持に合歓の花と茅花を折りとって贈ったときに添えた歌のようですね。

紀郎女は安貴王(あきのおほきみ)の妻で、大伴家持と深い親交があったようでこの二人の間には多くの相聞歌が残されています。
この歌もそんな紀女郎が家持に贈った一首ですが「おまえのために私が手も休めずに春の野で抜き摘んだ茅花ですよ。食べてお太りなさい。」と、年下の家持にまるで姉か母かのような態度で気遣った歌となっています。

「戯奴(わけ)」とは下僕などを呼ぶときに使う言葉ですが、この場合はとくに親しい間柄であった年下の家持を愛情をもってからかう意味合いで戯れてこう表現したのでしょう。
それほどまでにこの二人の間柄は親しかったという証拠でもありますね。
「〔変(へん)してわけと云ふ〕」とあるのは「戯奴」の読み方を「わけと読む」と歌の中でわざわざ注釈したものです。

つまりは「わたしがおまえのために摘んできた茅花だからたんと食べてお太りなさい」と言っている訳ですね。
「茅花(ちばな)」は春に白い穂花を出す草で、まだ草の葉に包まれている状態の新穂花を噛むと甘い味がすることから万葉人も好んで食べたようです。
まあ、現代人にははっきり言って薄味すぎて物足りない甘さですが、甘い物の少ない万葉時代にはお菓子代わりの貴重な植物だったのでしょうね。
そんな茅花に添えて家持に贈った紀女郎の、戯れの中にも思いやりの心が感じられる一首のように思います。


茅花(ちばな)はチガヤの花のこと。
茅花の食べ方は巻八(一四四九)に解説していますので、そちらもまた参考にしてみてください。


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万葉集巻八の他の歌はこちらから。
万葉集巻八


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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